ロジカル思考の強みと限界

「MECE(漏れなく、ダブりなく)」「ロジックツリー」「ピラミッドストラクチャー」――ロジカル思考のツールは、ビジネスの現場において長年にわたり重宝されてきました。問題を構成要素に分解し、それぞれに対して打ち手を考えるアプローチは、構造が安定した問題には今でも有効です。

しかし、グローバルサプライチェーンが複雑化した現代において、ロジカル思考だけでは歯が立たない問題が増えています。

例えば、欠品が頻発しているとします。ロジックツリーで原因を分解すると、「需要予測精度が低い」「リードタイムが長い」「在庫基準が古い」などの要因が並びます。それぞれに対して個別に手を打ちます。ところが、各対策を実行したにもかかわらず、欠品は減らない。それどころか、別の場所で過剰在庫が積み上がり始めます。

これは、ロジカル思考が「要素の分解」には長けている一方で、「要素同士の相互作用」と「時間的な遅れ」を見落としがちであることに起因します。多くの拠点・企業・国にまたがり、相互に影響し合うサプライチェーンという「複雑系」には、システム思考が必要です。

システム思考とは何か

システム思考とは、「分析対象を複数の構成要素からなるシステムとして捉え、各要素がどのように相互に影響を与え合いながら、全体としてどのような機能を果たすのかを考えるアプローチ」です。ロジカル思考が問題を「分解」することを起点とするならば、システム思考は分解した要素の因果関係を可視化し、各要素がシステム全体をどのように左右するかを表すことに長けた思考技法です。

氷山モデル――見えている問題は一角にすぎない

システム思考の中核となる概念が「氷山モデル」です。私たちが「問題」として認識するのは、水面上に出た「出来事(イベント)」にすぎません。その下には、繰り返し発生する傾向としての「パターン」、パターンを生み出している要素の相互関係としての「構造」、そして構造を支える人々の思考の枠組みとしての「メンタルモデル」が層をなしています。

さらにその下に「世界観」という層があります。メンタルモデルが「在庫は悪だ」「計画精度を上げれば問題は解決する」といった個人・組織レベルの前提であるのに対し、世界観はより根底にある「価値とは何か」「ビジネスの目的は何か」を規定する枠組みです。(なお、メンタルモデルに世界観を含めることがありますが、ここでは両者を分けて扱っています。)

たとえば、「モノを効率的に流す」という発想は、モノ(Goods)を起点に置く「GDL(グッズ・ドミナント・ロジック)」の世界観を前提としています。この世界観が変わらない限り、メンタルモデルは変わらず、構造・パターン・出来事も繰り返されます。表面的な問題対処の繰り返しから抜け出すためには、氷山のより深部にある世界観そのものに働きかける必要があります。

欠品問題に戻って考えてみましょう。表面に見える「欠品」という事象だけに対処しても、構造やメンタルモデル、世界観が変わらなければ問題は繰り返します。「欠品が起きたら安全在庫を積む」という対処療法は、過剰在庫というパターンを別のところで生み出します。根本的な解決には、構造そのものに働きかける必要があります。

因果関係図とフィードバック:「構造」を可視化する

構造を可視化するツールが「因果関係図(CLD: Causal Loop Diagram)」です。各要素の因果関係を矢印で結び、正(同方向に変化する)・負(逆方向に変化する)のループを描くことで、システムがどのようなダイナミクスを持つかが見えてきます。

サプライチェーンで有名な「ブルウィップ効果(鞭打ち現象)」も、因果関係図で描くと、消費者需要のわずかな変動が上流に行くほど増幅される構造が浮かび上がります。この問題は特定の誰かのせいではなく、「構造」そのものが生み出しています。特定の拠点や担当者に責任を帰すのではなく、情報共有の仕組みや発注ルールの見直しといった構造への働きかけこそが有効な打ち手となります。

このような構造への働きかけを行う際、最小限の力で最大の変化を生み出せるポイントを「レバレッジ・ポイント」と呼びます。ドネラ・H・メドウズは『世界はシステムで動く』の中で、「物理的な構造(ストックやリードタイム)」「フィードバック構造」「情報の流れ」「制度上の構造(目標・ルール・インセンティブ)」「メンタルモデル(思考の枠組み)」の各観点からレバレッジ・ポイントを探ることが重要だと述べています。

また、現実のシステムでは、原因が結果に表れるまでには時間的なギャップ(「遅れ」)が存在します。この「遅れ」を考慮しないと、まだ効果が出ていないのに「施策が効かなかった」と判断して追加の対策を重ね、後からオーバーシュートを引き起こすことになります。

メンタルモデルを問い直す

氷山モデルの深層に位置する「メンタルモデル」と「世界観」は、最も変えにくい層であると同時に、最もインパクトの大きいレバレッジ・ポイントでもあります。

「サプライチェーンとは需要に対し効率的に供給するためのものだ」「在庫は悪だ」「計画精度を上げれば問題は解決する」など、これらの前提は特定の時代には合理的な判断基準でしたが、環境が変わった今もなお「見えない前提」として組織の構造を規定し続けています。

ピーター・センゲが提唱する「学習する組織」の五つのディシプリンの一つ「メンタルモデル」は、自分たちの前提・思い込みを可視化し、問い直し、更新し続けることを求めます。これは個人の努力だけでなく、心理的安全性が確保された場での対話を通じてはじめて組織的に機能します。

Action Inquiry:行動しながら前提を書き換える

Action Inquiry(行動探求)」は、システム思考の実践と学習を組織に埋め込む原理です。一度の改革やITシステム導入でSCMの変革が終わることはありません。重要なのは「学び続ける力」を組織に埋め込むことです。

Action Inquiryが活用する「トリプルループ学習」には三つの段階があります。

シングルループ学習:計画と実績のギャップを埋めるためにやり方を調整する(PDCAサイクル型)

ダブルループ学習:KPIや前提となるルール・目標そのものを問い直す(S&OPの設計見直し、SCMルールの再定義)

トリプルループ学習:「何のためにそのSCMを運営しているのか」という目的・アイデンティティ・価値観を問い直す

SCM組織に蔓延しがちな「計画精度をさらに上げれば問題は解決する」という思考は、シングルループの中で閉じています。システム思考を活かすためにはダブルループが必要であり、さらに根本的な変革の出発点となるのがトリプルループです。

ダブルループ以上の学習においては、PDCAだけでなく「OODAObserve:観察、Orient:意味づけ、Decide:意思決定、Act:行動)」ループが有効です。OODAとPDCAの最大の違いは、「Orient(意味づけ)」が明示されている点にあります。OODAでは、観察した事実をもとに自分たちの前提・世界観・状況認識を更新し、そのうえで意思決定を行います。つまりOODAは「前提を書き換える」ことを内蔵したループです。

また、学習が組織内に閉じると知識はやがて密結合化していきます。学習をエコシステム全体に広げ、知識を疎結合化させていくことで、サプライチェーンは動的に再構成され続けます。Action Inquiryは、個社の学習を超えて、サプライチェーン・パートナー全体の学習へと広い視点を持ちます。

「構造」への働きかけがSCMを変える

ロジカル思考は「正しい答えを分析する」ための道具です。それは今も重要であり続けます。しかし、グローバルサプライチェーンが直面する問題の多くは「複雑」な領域に踏み込んでおり、正しい答えが事前には見えません。

システム思考は、そうした複雑さを「事象」のレベルではなく「構造」のレベルで捉え直します。氷山モデルで深層を見る。因果関係図でフィードバックと遅れを可視化する。レバレッジ・ポイントを見つけ、構造そのものに働きかける。SCM5.0はこの視点を積極的に取り入れました。

そしてSCM6.0が求めるのは、システム思考をさらに深めることです。カネビン・フレームワークによって問題の性質を見極め、反脆弱性と疎結合の設計思想によってショックを学習に変え、氷山モデルとU理論の統合によって「知覚の転換」を起こし、Action Inquiryによって行動しながら前提を書き換え続ける。その土台となるのが、組織全体で問いを立て、対話し、学び続ける「学習する組織」の能力です。

「あなたの組織のSCMは、何を目的として存在しているのか」。その問いを問い直す第一歩として、ロジカル思考からシステム思考へ、そしてさらに深い視座へと踏み出してください。