「物流=コスト」という固定観念を疑う
物流は、長らくコストとして語られてきました。日本ロジスティクスシステム協会の調査によれば、売上高に対する物流コストの比率はおよそ5%とされ、その内訳の大半を輸送費が占めます。多くの企業にとって物流費は無視できない規模であり、だからこそ「いかに下げるか」が物流部門の中心的な取り組みであり続けてきました。
積載率を上げる。ルートを最適化する。拠点を集約する。これらはいずれも有効な打ち手であり、実際に多くの成果を生んできました。しかし、改善を重ねるほど次の一手は見つけにくくなります。削減の余地が小さくなると、物流部門は守りに入らざるを得ません。攻めの目標を見出せないまま、現状維持だけで回っていく。これは現場の意欲の問題ではなく、「物流=削るもの」という捉え方そのものがもたらす停滞です。
物流は、本当にコストでしかないのでしょうか。削減を突き詰め、痩せ細った原価が残ればそれでよいのでしょうか。物流という営みには、これまで「コスト」という一語で覆い隠されてきた別の側面があるのではないか。本記事の出発点は、この問いにあります。
「削減するSCM」から「生成するSCM」へ
ここで強調しておきたいのは、削減と価値生成は対立しない、という点です。コストを下げる努力は今後も必要であり、これまでの効率化の積み重ねがあったからこそ、次の問いに進めます。
問題は、物流を「コストを削る対象」としてのみ捉えてきたために、最適化の網からこぼれ落ちている価値があることです。最適化は、測れるもの、数値化できるものを対象にします。輸送費、保管費、リードタイムは計算式に乗ります。しかし、現場が日々受け取っている顧客の反応や、同業他社と組めば生まれる新しい解、現場の人だけが知っている事実は、その計算式に乗っていません。測れないがゆえに、価値として認識されてこなかったのです。
従来、サプライチェーンは「調達から生産、在庫、出荷を経て顧客に届けて終わる」直線的な流れとして理解され、物流はその終点に置かれてきました。しかし、届ける現場は終点であると同時に、顧客と接し、反応を受け取り、次の活動へつながる起点でもあります。多くのやり取りが画面の中で完結する時代だからこそ、モノが手渡される瞬間は、企業が顧客と現実に向き合える希少な機会になっています。物流を「届けて終わりの直線」ではなく「顧客や取引先とつながり続ける円環」の一部として捉え直すと、これまで見えなかった価値が浮かび上がってきます。以下、3つの視点から捉え直していきます。
捉え直し①:物流は「顧客との接点」である
第一の捉え直しは、物流を「顧客との接点」として見ることです。
需要、つまり「どれだけ売れたか」は、POSデータや受注データから把握できます。しかし、データから分かるのは「結果としての数量」であって、顧客が商品を「どう受け取ったか」は表れません。
物流の現場は、企業が顧客や取引先と物理的に向き合う、数少ない接点です。届ける瞬間、納める瞬間に、現場は多くを受け取っています。納品先の倉庫で「この荷姿は受け入れにくい」と言われる。顧客の担当者が、想定とは違う使い方を口にする。そうしたやり取りのなかに、顧客が本当に求めているものが滲み出ています。消費者向けであれば、再配達の多さや置き配への反応も、顧客の生活実態を映す情報です。
こうした「どう受け取られたか」という情報は、届ける現場でしか見聞きされません。そして多くの場合、それは記録されることなく、その場限りで消えています。これを顧客理解の手がかりとして拾い上げ、計画や商品開発へと還流させることができれば、物流は「コストを使う終点」から「顧客を知る起点」へと変わります。
一つ、身近な例を挙げます。ECサイトでは近年、配送時に「簡易梱包」と「通常梱包」を選べる仕組みが広がっています。包装資材を減らす施策として語られがちですが、それだけではありません。ECサイトでの商品レビューには「梱包が過剰だ」という声が少なからず寄せられています。届ける現場や顧客との接点に表れたこうした反応こそ、梱包のあり方を見直す出発点になります。「どう受け取られたか」を拾い上げることが、資材の最適化と顧客満足の両立につながった例と言えます。
捉え直し②:物流は「競争ではなく共同で解く」
第二の捉え直しは、物流を「競争の場」ではなく「共同で解く場」として見ることです。
企業は商品やサービスで競い合います。しかし、その商品物流では、必ずしも競う必要はありません。むしろ、輸送網や拠点、輸送資源を同業他社やパートナーと共有することで、一社単独では到底実現できない価値が生まれることがあります。
国内では、食品メーカー各社による共同配送の取り組みが知られています。味の素、ハウス食品グループ本社、カゴメ、日清製粉ウェルナ、日清オイリオグループ、Mizkanの6社は、2015年に「競争は商品で、物流は共同で」という理念のもとでF-LINEプロジェクトを発足させ、ライバル同士が同じトラックに商品を積む共同配送を実現しました。トラック台数の削減や伝票様式の標準化に加え、北海道地区では鉄道へのモーダルシフトにより対象輸送のCO₂排出量を約68%削減できる見込みとしています。ドライバー不足や脱炭素という、一社では解ききれない社会課題を、競合と手を組むことで前に進めた事例です。
共同で解くという発想は、国内配送に限りません。国際物流では、輸入で港に着いた空コンテナを、近隣の輸出企業がそのまま使う「コンテナ・ラウンドユース」という取り組みがあります。本来は各社が個別に空コンテナを港へ返却・回送していたものを、企業や船社をまたいで融通し合うことで、回送にともなう輸送とコスト、CO₂排出を削減できます。国土交通省と経済産業省もこれを後押ししており、内陸の一時保管拠点を介して異業種の荷主同士を結びつけ、年間100トン規模のCO₂削減を実現した事例もあります。
いずれの取り組みにも共通するのは、「競合」と見なしていた相手が、ある課題を共に解くパートナーになり得るという点です。何を競い、何を協力するのか。その線引きは固定されたものではなく、自ら引き直すことができます。
捉え直し③:物流現場は「組織が学び続ける起点」である
第三の捉え直しは、物流の現場を「組織が学び続ける起点」として見ることです。
物流において、システムが見ているのは、伝票、運賃、実績といった「結果」の数字です。一方で、現場の人だけが知っている事実があります。荷役の段取り、先ごとの受け入れの癖、どの時間帯にどこで待たされるか。こうした勘どころの多くは、どこにも記録されず、最適化の計算式に入っていません。これらを削るべき作業の一部としてではなく、組織の学習資源として捉え直すと、これまで解けなかった問題の本当の姿が見えてきます。
一つ例を挙げます。ある取引先への納品時間が「午前中着」と定められているとします。珍しいことではなく、商習慣として広く見られる条件です。営業にとって、納品時間は価格や数量に比べればごく細かい一項目で、深く意識されることは多くありません。ところが午前中は待機が長く、午後ならスムーズに入れることを現場のドライバーは知っています。
この事象は、同じに納品する各社が一様に午前着の条件で納品することから発生します。朝に物量が集中し、荷捌きが追いつかないのです。待機は、特定のドライバーや一社の問題ではなく、横並びの取引条件が同じ時間帯に重なって生まれる構造的なものでした。国土交通省の調査では、トラック1運行あたりの荷待ち時間は平均1時間34分にのぼります。「いつ・どこで・なぜ待つのか」を現場から記録し、可視化して初めて、この構造が見えてきます。解くには、先や他の事業者も巻き込んで、納品時間を分散させる必要があります。
物流から見れば、待機は仕方のない当たり前のこと。営業から見れば、気に留めるほどでもない条件。部門ごとに価値の重みづけがずれていたことが、現場の一次データによって可視化されます。当たり前とされてきたその条件が、実は自社と顧客の双方に負担を生んでいたのです。現場の一次データは、当たり前とされてきた事象を捉え直し、本当のボトルネックはどこかを問い直すための材料になります。
ラストマイルは「問題」ではなく「情報源」
日本のラストマイルを取り巻く数字は非常に厳しい状況です。
国土交通省が2024年10月に実施した「宅配便再配達実態調査」によれば、同月の宅配便再配達率は約10.2%、取扱個数そのものも2024年度で約50億個(国土交通省)に達しており、EC拡大を背景に配送需要は高止まりしています。こうした状況のなか、2024年問題(トラックドライバーの時間外労働規制強化)がドライバー不足に追い打ちをかけています。
また、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の「2024年度物流コスト調査報告書」によれば、荷主企業の売上高物流コスト比率は全業種平均で5.44%となり、前年度から0.44ポイント上昇しました。値上げ要請を受けた企業は回答企業の91.7%にのぼり、物流コストの上昇圧力はあらゆる業種に及んでいます。
こうした数字を前にして、多くの企業が取り組むのは「効率化」です。配送ルートの最適化、宅配ロッカーの整備、置き配の推進いずれも正しい取り組みです。しかし、これらはすべて「ラストマイルで起きている症状への対処」に過ぎません。
問い直すべきは、なぜラストマイルにこれほどの負荷が集中するのか、という構造そのものです。
顧客への最終接点で生じている問題は、多くの場合、上流の意思決定の結果です。多品種・小口・多頻度の配送需要が増えたのは、商品ラインナップの多様化と即日・翌日配送への期待が重なったからです。再配達が多いのは、顧客の都合に合わせた配送時間の選択肢が十分に設計されていないからです。ラストマイルのコストが高いのは、在庫配置やDCネットワークの設計が「顧客の受け取りやすさ」ではなく「保管・配送の効率」を起点に設計されてきたからかもしれません。
ラストマイルは物流の終点ではなく、SCM設計の起点となりうる情報源なのです。
「顧客起点の逆算」がSCM全体設計を変える
Amazonは、その事業の中心に「顧客体験から逆算するSCM」の思想を置いています。同社では商品ページに書くプレスリリースから事業設計をスタートさせるアプローチが知られており、「顧客にどんな価値を届けるか」から逆算して、在庫の配置、DCネットワーク、配送手段が決まります。
これは、SCM6.0が提唱する「ジェネラティブ・サプライチェーン」の考え方とも通じます。SCM6.0では、これまでのSCMが「削減する」ことを目的としてきたことの限界を指摘しています。コストを削減し、在庫を削減し、リードタイムを削減する――それ自体は間違いではありませんが、「何のために」「誰に」「どんな価値を届けるためにSCMが存在するのか」という問いが抜け落ちると、手段の目的化が起きます。
「削減するSCMから生成するSCMへ」この思想をラストマイルの文脈で解釈するなら、「ラストマイルのコストをいかに削るか」という問いから「ラストマイルで顧客にどんな体験を生成するか」という問いへの転換です。
この転換が難しい理由のひとつは、物流ネットワークの検討が「現状の物量をいかに効率よく捌くか」という問いに閉じやすいことにあります。ある企業の物流プロジェクトでは、精緻な拠点配置シミュレーションが行われていましたが、その前提となる物量データは直近の実績ベースに留まっていました。チャネルの拡大や商流の変化といった事業構造の変化が、シミュレーションにまったく織り込まれていなかったのです。「現状最適」を精緻に計算しても、それは「今の顧客への届け方の効率化」であって、「将来の顧客への届け方から逆算した設計」にはなりません。
そしてこの問いの立て方のズレは、時間をかけてラストマイルに蓄積されていきます。
ネットワーク設計の現実:コストと応答時間のトレードオフ
顧客への配送速度を高めるには、在庫を顧客に近い場所に置く必要があります。しかし、在庫拠点を分散させると在庫総量は増え、コストが上昇します。これはSCMのネットワーク設計における古典的なトレードオフです。
「√n法則」と呼ばれる考え方があります。在庫拠点(DC)の数を増やすほど、必要な安全在庫の総量が√n倍に膨らむ傾向があるというものです。たとえば、集約型の1拠点を3拠点に分散すると、必要な安全在庫額は約1.73倍になります。分散型ネットワークはラストマイルの配送費を下げる一方で、在庫保有コストを押し上げます。
そのトレードオフを放置したまま年月が経つと何が起きるでしょうか。ある国内消費財メーカーでは、単一エリアに点在する複数の倉庫から1台のトラックが順番に積み込みを行う「多箇所積み」が常態化し、ドライバーの平均拘束時間が2時間を大きく超えていました。現場は「ドライバーをどう確保するか」を議論していましたが、問題の根は長年変わらなかった拠点の配置設計にありました。拠点を集約するだけで拘束時間を大幅に削減できる試算が出たとき、担当者は「なぜもっと早く気づかなかったのか」と口にしました。
日本のEC市場では、こうした問題に対してマイクロDCやマイクロフルフィルメントセンターという解が試みられています。大型DCから地域の小型拠点(マイクロDC)へ補充し、顧客への配送を当日〜翌日で完結させるモデルです。当日配送が可能になる一方で配送コストは増加するケースもあり、顧客満足度の向上が売上増につながるかどうかを慎重に見極める必要があります。
重要なのは、「どのネットワーク設計が最も優れているか」という問いより、「自社の顧客セグメントと事業特性に対して、どの設計が最も価値を生成できるか」という問いです。都市部と地方で配送サービス水準を変える、B2BとB2Cで在庫配置を分ける、といった「セグメント別設計」の発想がより実践的でしょう。
最適化の「対象」に価値生成を入れる
3つの捉え直しを振り返ります。物流は、顧客が商品をどう受け取ったかが分かる「顧客との接点」であり、競合とも組んで社会課題を解ける「共創の起点」であり、現場の一次データから前提を問い直す「学びの起点」でもあります。物流価値とは、この〈顧客理解の価値〉〈共創の価値〉〈学習の価値〉の総体と言えます。
冒頭の問いに戻ります。物流コスト最適化の先にある「物流価値」とは何か。それは、削減を突き詰めた先に新たに削減対象を探り当てる作業ではなく、これまで「コスト」という一語の陰で見過ごされてきた、すでにそこにある価値です。
最適化そのものを否定する必要はありません。必要なのは、最適化の「対象」を広げることです。輸送費やリードタイムといった測れるものだけでなく、顧客理解、共創、学習という、これまで計算式に乗らなかった価値を、評価の軸に加えてみる。それは、物流をコストセンターとして肩身の狭い立場に置くのではなく、企業価値を生み出す主体へと変えていく、明日からの一歩になると筆者は考えます。
参考文献など
- 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会, 物流コスト調査
- 国土交通省, トラック輸送における取引環境・労働時間改善に関する資料(2024年問題・荷待ち時間・政府目標)
- 味の素グループ, “トラックの待機時間やドライバーの労働時間を短縮!物流業界が注目する「F-LINE®プロジェクト」とは?”, https://story.ajinomoto.co.jp/report/120.html
- F-LINE株式会社 公式サイト, https://www.f-line.tokyo.jp/
- 国土交通省「グリーン物流パートナーシップ」関連資料/コンテナ・ラウンドユースの公表事例



