生成AI時代におけるブランド強化の重要性と主な対応策

~揺るがないブランドづくりが企業の競争力に~

コンサルタント執筆記事

2026.02.24

生成AIの急速な普及は、企業のマーケティング活動に大きなパラダイムシフトをもたらしている。高品質なクリエイティブのみならず、顧客体験設計やマーケティング施策案まで誰もが情報生成できる現代においては、皮肉にもマーケティング活動は同質化リスクにさらされる。
また、生成AIによって顧客購買プロセスも変化し、特にスペック・価格など「機能的価値」につながる客観情報は生成AIによる情報取得が容易となり、合理的な判断は大きく効率化されつつある。このようにマーケティングの同質化リスクが高まり、商品購買において「機能的価値」を優位とする合理的判断の効率化が進む中、企業の競争優位性を左右するのは、生成AIには代替が難しい信頼や共感といった「情緒的価値」の形成、すなわち「ブランド強化」そのものである。
本稿では、生成AI時代において、揺るがないブランドを築くために押さえるべき主なポイントと、その推進力を高める組織面・人材面の取り組みについて解説する。

1. 生成AIによる影響でブランド強化の重要性は高まっている

生成AIの急速な普及により、企業のマーケティング活動は下記のような大きなパラダイムシフトが生じている。

①表現のコモディティ化と情報受容の変化

生成AIの進化により、誰もが・すぐに・一定水準以上の品質を持つクリエイティブを生成できるようになった。これはマーケティング活動の効率化という点では大きな進歩である一方、企業間の表現差を縮小させている。コモディティ化されたクリエイティブが増大することにより、顧客からは「似たような広告を見た」「他の商品と見分けがつかない」など、顧客の情報に対する受容も変化してきている。こうした環境において、単に目を引く表現を生み出すだけでは、ブランド価値の向上にはつながらない。

②マーケティングの最適化領域の拡大と同質化リスクの増大

データにもとづくマーケティングの最適化は、これまでABテストやパーソナライズ配信といった「マーケティング施策の実行領域」を中心にテクノロジーが適用されてきたが、生成AI活用によってマーケティングプロセス全体に拡大している。例えば、高度な分析スキルや人的リソースを要する「戦略/施策プランニング領域」に対して生成AIを適用することで、データに基づく顧客体験設計やマーケティング施策案などを簡単に生成できるようになった。しかし、こうした機械的かつ合理的なアプローチの適用領域が広がり、誰でも簡単に生成AIを使って情報出力することでマーケティング活動の同質化がこれまで以上に進みやすくなっている。短期的な成果は改善しても、長期的には記憶に残らず、容易に代替される存在になってしまう恐れがある。

③購買プロセスの変化と「機能的価値」を優位とする合理的判断の効率化

これまでの顧客購買プロセスは、ウェブ検索をしながら複数の商品ウェブサイトに訪問し、情報比較のうえで検討・購入する「段階的な顧客行動」であることに対して、現在は生成AIとの対話によって購買決定に資する情報まで一気通貫で辿り着ける「シームレスな顧客行動」に変化してきている。特にスペック・価格・性能といった「機能的価値」につながる客観情報は生成AIによる情報取得が容易となり、合理的な判断は大きく効率化されてきている。

このように生成AIの浸透によって、マーケティングの同質化リスクが高まり、購買検討において「機能的価値」を優位とする合理的判断が効率化される一方で、企業・商品に対する信頼や共感といった「情緒的価値」は、依然として人間的な文脈や一貫した体験の中でしか形成されない。だからこそ、「ブランドの真正性(Authenticity)」と「一貫性」が、生成AI時代における競争優位性を高める重要な要素となっている。

2. ブランド強化において押さえるべき3つのポイント

生成AI時代において「ブランドの真正性と一貫性」を維持・強化していくためには、単発的な施策や表現改善にとどまらず、ブランドを支える「戦略」と「運用」を体系的に再設計することが不可欠である。本パートでは、具体的な取り組みとして押さえるべき3つのポイントを整理する。

①「ブランドの核」の再定義

生成AI時代のブランド強化において、最初に取り組むべきは「ブランドの核」の再定義である。生成AIによって加速する「表現のコモディティ化」や「マーケティング活動の同質化リスク」に対応するために、企業は自らの立ち位置をこれまで以上に鮮明にしなければならない。

多くの企業では、経営理念を体現する「企業ブランド」を筆頭に、各事業で展開する「事業ブランド」、そこに紐づく「商品ブランド」が階層的に存在しているが、実態としては各ブランドで担う役割が不明瞭なまま、現場の判断で個別に運用されているケースが散見される。一貫性を欠いた情報発信が生成AIによって拡散・強化された結果、ブランド価値は分散するだけでなく場合によってはその価値を毀損してしまうリスクも伴う。そのため、まずは自社のブランド階層を棚卸しし、どの階層に最もブランド価値を蓄積し、競争優位の源泉とするのかという「戦略ブランド」の選定を明確に行う必要がある。

「戦略ブランド」を定めた後に取り組むべきは、AIがどれほど高度にコンテンツを自動生成しても決してブレることのない「ブランドDNA」の言語化である。具体的には以下の視点からブランドを再定義し、言語化していくプロセスが不可欠となる。

  • 存在意義(Why):
    なぜこの事業を続けているのか、利益以外に社会や顧客に提供している本質的な価値は何かという「ミッション/パーパス」に立ち返り、ブランドが社会に存在する根本的な理由を定義する。
  • 信念・価値観(Belief):
    創業以来大切にしてきた考え方や、過去の成功・失敗から得た共通の判断基準を抽出し、何を優先して選択・行動するべきかというブランド固有のスタンスを明確にする。
  • 約束する体験(Promise):
    顧客がそのブランドに対して感じる「らしさ」や、競合・代替手段に対して模倣困難な決定的違いを整理し、自社が提供することを顧客に誓う具体的な価値体験を策定する。

このようにブランドの核が明確に言語化されていれば、AIが生成する膨大なコンテンツや多層的な顧客接点においても、自社らしい「ブランドの真正性と一貫性」を保つことが可能になる。ブランドDNAは、生成AI時代におけるマーケティング活動の羅針盤としての機能を果たすことになる。

図1:ブランド階層を踏まえた「戦略ブランド」の選定と「ブランドDNA」の言語化

②ブランドガバナンスの再設計

次に求められるのが、企業が定義したブランドの核(DNA)を各顧客接点で維持・管理するための「ブランドガバナンス」の再設計である。従来のブランドガイドラインは、人が制作することを前提に設計されているものが多く、生成AIの活用を十分に想定できていないケースが多い。言語化したブランドDNAを各種ガイドラインに落とし込むとともに、今後はAIによるコンテンツ生成を前提とした要件整理を加えていくことが求められる。主な観点は以下のようなものが挙げられる。

  • 判断原則(Decision Principle)の具体化:
    AIが自動生成してよいコンテンツ、ブランドを守るために人間が手掛けるコンテンツを区分。コンテンツの影響度(例:SNSの定型投稿vs全社的な重要広告)や投資規模などの観点をもとに設定する。
  • 言語資産(Brand Linguistic Assets)の反映:
    ブランドDNAに則りAIがコンテンツ生成するための推奨・禁止表現をデータベース化。より実践的な運用としてプロンプト用の指示文をテンプレート化することも有用である。
  • 承認フロー(Approval Process)の見直し:
    リスク別の承認ルート、承認者を定義。リスクレベルが小さいものはAIによる自動チェックで済ませていくことも検討する。

これらはブランドガバナンスにおいて重要な観点となるが、過度に詳細なガイドラインは効率性を損ねてしまうことに注意が必要だ。「人間が対応すべき領域は詳細運用を避ける」「業務そのものを部分的にAIに任せる」などスピードと統制の両立を意識した設計がポイントとなる。

③ブランドKPIの可視化とPDCAモニタリング

ブランドの核を再定義し、生成AI時代に適したガバナンスを設計したとしても、その活動が実際のビジネス成果にどう寄与しているかを示さなければ、ブランディング活動を継続させることは難しい。生成AIによって施策実行のスピードが加速する中で、ブランディング活動の価値を可視化し、意思決定に組み込むための「モニタリング体制」を構築することが重要となる。

図2:ブランドKPIを含む各種指標と「ブランディング活動」および「マーケティング活動」の関係性

 

具体的には図2の通り、「ブランディング活動」と「マーケティング活動」の関係性に基づき、各種指標を統合的に管理・評価していくことが有用である。

ブランドKPIには、「純粋想起率」「ブランドロイヤルティ(NPS®:ネット・プロモーター・スコア®(*))」「ブランドプレミアム(価格受容性)」など中期的なブランド価値を計る指標が挙げられる。一方でマーケティングKPIには「新規顧客/リード獲得」「顧客獲得効率(CPA:顧客獲得単価、CVR:コンバージョン率)」など短期的な事業貢献を示す指標が並ぶ。これらはブランディング活動によってマーケティング施策結果が底上げされ(リフトアップ効果)、マーケティング活動によってブランド価値が底上げされる(ブランド蓄積効果)といった具合に相互作用する。

この相互作用を数的メカニズムで紐解くことは高度な統計分析スキルを要するため、まずは関係する各種KPIを一体となって可視化・管理し、定期的な効果測定を行うことで「リフトアップ効果」と「ブランド蓄積効果」の傾向を把握するなど段階的に進めるのも一案となる。

これらの結果を社内関係者に共有してPDCAを回すことにより、一貫性のあるマーケティング活動とブランディング活動の継続に寄与していくだろう。

3. ブランディング活動の推進力をどのように高めていくか

ブランディング活動を実効性のあるものとするためには、組織面および人材面での取り組みが欠かせない。特に重要なのが、「ブランド組織のリーダーシップ強化」である。散見されるのは、ブランド機能に関連する部門が複数にまたがることで、職務分掌上の「ブランド戦略策定・推進」が複数部門で設定されてしまい、現場レベルでの協業やリーダーシップが思うように発揮できない状況が生じているケースだ。

状況打開のためにはブランド機能に係る職務分掌を明確にし、ブランドに関する最終判断の責任所在を定めることで、部門横断での意思決定を円滑にする必要がある。さらにブランド機能を強化する観点から、組織体制そのものの見直しも有効である。

ブランド機能強化における組織類型には、「①マーケティング部門拡充型」「②コミュニケーション統合型」「③ブランド戦略組織の設置型」などが挙げられるが、どのような体制が自社にとって最適であるかは「業務の親和性」「人材・ケイパビリティ」「社内の影響力」など多角的な観点で評価を行うことが肝要となる。合わせて、生成AI時代のブランド強化においては「IT・DX部門」とも密に連携し、ブランディングおよびマーケティング活動に生成AIを積極的に活用する環境を構築することにも留意したい。

図3:ブランド機能強化における組織類型

 

他にもブランディング活動の推進力を高める方策として、社員の意識変革につなげる「インナーブランディング活動の強化」が挙げられる。言語化された「ブランドDNA」は単にドキュメントとして配布されるだけでは現場に浸透しないため、自社社員を対象に、ブランドの背景にある想いや目指すべき姿を丁寧に伝え、深い理解と共感を醸成する周知活動を継続的に行うことが有効である。

生成AI時代においては、ブランディング活動に関わる対象社員には「生成AIリテラシーとAI×ブランドの編集能力の強化」につながるスキルアップ機会を提供することも意識したい。生成AIに関する基本的なリテラシー向上はもちろんのこと、AI利用に伴うコンテンツ編集・判断のスキルアップを図ることで、コモディティ化のリスクを回避し、自社のブランドDNAを取り入れた一貫した情報発信の強化に寄与していくだろう。

おわりに

生成AIという強力なテクノロジーを手に入れた現代において、企業が真に問われているのは、その機動力を最大限に引き出しつつも自社ブランドの価値に結び付けていく「ブランドの真正性と一貫性」である。

テクノロジーがどれほど進化し、マーケティングの手法が高度化・効率化されようとも、顧客の心に深く刻まれる「信頼」や「共感」を自動生成することはできない。むしろ、生成AIによってコンテンツが量産化される時代だからこそ、企業の根幹にある「ブランドDNA」という独自の羅針盤を持ち、真正性と一貫性を堅持する取り組みが、市場における唯一無二の競争優位性となっていく。

本稿で示したブランドの核(戦略ブランド)の再定義、ブランドガバナンスの再設計、そして組織・人材の変革は、決して容易な道のりではない。しかし、この荒波を乗りこなし、次世代の市場をリードできるのは、生成AIを取り入れながらも自社の揺るぎないブランドを真ん中に据えてマーケティング活動を最大化できる企業である。本提言が、生成AI時代において揺るぎないブランドを築き、持続的な成長を実現するための一助となれば幸いである。

(*)ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、ネット・プロモーター・スコア、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、NICE Systems, Inc.の登録商標又はサービスマークです。

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