2026年1月5日~9日の5日間、世界最大級のテクノロジー展示会CESが米ラスベガスで開催された。「CES 2026」では出展企業は4,100社超、来場者は15万人規模に達し、テクノロジー潮流の現在地と「この先」を占う場として例年同様の熱量を帯びていた。
本稿では、当社のコンサルタントが現地で得た一次情報と、過去のCES 2024・2025の潮流を踏まえ、CES 2026を特徴付ける4つの視点をまとめる。筆者の印象として、特に今回は、過去に見られた生成AIの熱狂が落ち着きを見せる一方で、AIがあらゆるソリューションの「構成要素」として自然に溶け込むコンセプトが多く見られた。なお、視察領域としては筆者らのコンサルティングサービスに関連のあるテクノロジーカテゴリー(AI、IoT、ロボティクス、クロスリアリティ(XR)、サステナビリティ―トランスフォーメーション(SX)など)に絞っている。特に目を引いたのが、アジア系企業の展示であったため、本稿で紹介している内容も結果としてそちらに偏っている点をご承知おきいただきたい。
※本記事は、ZDNET「プロ視点で読み解くロボティクス最前線—AIとヒューマノイドが労働構造を変える 」(2026年3月4日)の内容を転載しています。
目次
AIは前提技術化し、価値源泉は「ドメイン特化」へ移行
当社視点では2024年は「AIのプロダクトへの搭載の広がり」、2025年は「軽量化・エッジ・インクルーシブ」がキーワードだった。対して2026年は、さらにその先 ―― AIが「前提化」し、差別化の軸が「ドメイン特化型AI」へ移りつつあると言える。
AIを前面に出さない展示が主流に
もはや「AI搭載」は訴求ポイントになりにくく、ヘルスケア、人間工学、産業プラント、農業など、特定領域の深い課題に組み込まれたAIが主役に置き換わっていた。
例として、日本のクボタ、韓国のSaeFarm(セファーム)は農場全体をデジタルツイン化し、衛星写真・土壌データ・気候・作業履歴などを統合した上で「次に取るべきアクション」を提示するエージェントおよびその仕組みを展示していたのが非常に特徴的であった。
AI自体は「プロダクトを成立させる部品」へ
業務特化型AIが特徴的ではあったが、もちろん、AI自体の進化もなかったわけではない。具体的には「各プロダクトに必要な部品として尖らせる」方向にAIの技術進化が見られた。特に目を引いたのは以下4社の展示である。
- 「PERSONA AI」(韓国):GPU不使用で稼働するあらゆるデバイスに搭載可能な超軽量化した大規模言語モデル(LLM)
- 「KlingAI」(中国):テキストから画像/動画を生成できるソフト向けに最適化された生成モデル
- 「Acompany」(日本):高セキュリティを前提とした生成AI活用時の機密情報自動マスキングソリューション
- 「Tokoshie」(日本):複数のAI支援を組み込んだ2D/テキスト→3Dモデル生成可能な3D_CADソフト
これらももはや汎用(はんよう)LLMでは差別化が難しいため、業務特化型とは異なるベクトルの用途特化型へと進化した例といえる。また、これらの展示国に目を向けてみると、特に韓国・中国企業のAI技術への投資は強く、さらにそれらを組み込んだ家電やロボットなど「リアルタイム性」が求められる領域でも優位性が目立っていた。
ヒューマノイドを含むロボティクス×AIにより、現場作業領域への代替が現実的選択肢へ近づく
2025年時点で、AIはホワイトワーカー領域における代替・効率化が中心だった。しかし2026年は、人間の所作を忠実に再現できるほどの「体」としてのロボティクスの進化と、その体に指示を行う「頭脳」としてのAIの進化によって、現場作業領域にも代替の波が一気に押し寄せそうである。
あらゆるタスクをこなし始めるヒューマノイドの台頭
家事、スポーツ、配膳、組み立て、じゃんけんなどの動作を違和感なく実施するヒューマノイドが多数出展されていた。会場で人だかりを見つけるたびに、その視線の先にはヒューマノイドが何かしら動作している姿を何度も目にした。例えば「体」の進化で言うと、以下の展示が挙げられる。
ROBOTIS(韓国)ではモーションキャプチャーを実施し、人の動きを模倣するヒューマノイドロボットの展示があった。人間の手の動きを首元の仮想現実(VR)ゴーグル付属カメラでキャプチャーしてロボットが再現していたが、キャプチャーした手の動きをほぼ遅延なく(約1秒以内)精密に表現しており、最初は人間がロボットのまねをしているかと思うレベルであった。
また、Suzhou JoyIn Technology(中国)では、「Zeroth」というブランド名の家庭用・アウトドア・病院などの公共施設向けのヒューマノイドを展示していた。「M1」というロボットは家庭用で会話やアプリ上でのテキストのやり取りを通じてコミュニケーションすることが可能で、「Uber」の配車など家族をサポートする。「Jupiter」というロボットは病院などの公共施設用であり、すでに中国では受付などの実務を担っているとのことであった。
こういった展示を踏まえると、今後人間の生活をサポートするコンパニオン型のロボットが増え、一家に1台ロボットを所有する世界はいずれやってくると感じた。ただし、現時点では指示されたシングルタスクの処理のみが可能で複雑な家事などの対応は難しい状況であった。今後AIによるマルチエージェントオーケストレーションシステム(複数のAIエージェントが役割分担しながら連携し、タスクを自律的に処理する仕組み)を組み込んだロボットが台頭し、自律して複雑なタスクを行えるようになり、人間とロボットがコミュニケーションをしながら共に生活する世界線になるのではないかと予想される。
Amazonが示した「ティーチングレス・ロボティクス」
Amazonの展示は、「ホワイトワーカーで進むAI代替が、ヒューマノイド進化で現場作業者へも拡張される未来がいずれ到来する」ことを強く感じさせた。従来、産業ロボットの動きには手作業での記録や、ティーチングペンダントを用いた操作、PCソフトでのオフラインティーチングなど専門的セットアップが不可欠だったが、自然言語指示のみでロボット動作が完結するデモが披露された。概要としては以下の通りだ。
- 作業者は指示として「Look for steel plates」と入力するのみ
- AIエージェントがやるべきタスクを考えて、ロボットに探索・認識・判断・分類・移動を指示
- 合否判定や位置補正はAIエージェントが指揮を取りながら、ロボットとやりとりを行う
これは、作業手順の事前プログラムから脱却したことを意味し、「現場従業員がロボットを自然言語で扱う世界」が現実味を帯びてきたと言える。また、「頭脳」としてのAIが家事、工業作業などを学習していくことで、「体」としてのロボットに指示を与えて、人間同様の所作を実現することも遠くない未来に実現されるだろう。筆者としては、Amazonの展示が最も衝撃を受けたものであり、この先の未来を示すものであると感じた。
とはいえ「真の代替」には「頭脳」としてのAI進化が必要
現状のAIは、動作中の画像認識による補助には優れるものの、より汎用的/柔軟な判断を伴う「タスクの切り替え」までは到達していない。現場作業者代替の本格的波は、AIのさらなる進化――例えば汎用人工知能(AGI)などの登場を待つ段階にある点も冷静に押さえておきたい。
XRは業務活用では停滞だが、生活にAIエージェントを溶け込ませる役割へ
2025年に続き、XRのビジネス活用(業務効率化・生産性向上)では大きな進展は見られず、補助的な位置付けのままだった。一方で、生活文脈での XR×AIエージェントが一気に現実味を増したのが2026年の特徴だ。
XRは「補助デバイス」として依然殻を破れず
製造・現場作業・ナビゲーションといった実業務用途では、従来のユースケースとあまり代わり映えしておらず、大きなブレイクスルーは確認できなかった。
ユースケース例としては、以下の通りだ。
QUANDO(日本)の展示で、拡張現実(AR)グラスを用いて、製造業においてベテランと新人のOJTなど会話の記録を行い、「会話の要約→重要ポイント整理→データベースにナレッジ登録」を行うものがあった。例えば、設備点検時の点検項目、修正時の熟練工の暗黙知を形式知化し、新人が同じ作業をする際に、その勘所を提示し、行うべきことをレコメンドしてくれる。
また、Thinca(日本)の展示では、顔認識でお客様の情報をARグラスに瞬時に表示したり、AIを活用し商談の際のスクリプトを表示したり、翻訳を行うなど接客現場を支援するソリューションがあった。これによって、新人スタッフでも常連のお客さまに的確に接客することができ、すでにディーラーなどで活用されている。Thincaはもともと顧客関係管理(CRM)開発を手掛ける企業であり、ARグラスを通じてCRMの価値をリアルの接客現場へ拡張しようとする意欲が感じられる展示であった。
一方、生活領域では「AIエージェントのインターフェース」へ
ARグラス単体では道案内や翻訳機能にとどまっていたものの、常時AIエージェントと対話する生活インターフェースとしての位置付けが強化された。「Gemini」や「ChatGPT」を搭載したARグラスは複数社が展示し、「AIエージェントを用いる際のスマートフォンの代替候補」としての存在感が鮮明になってきている。
TCL(中国)の展示にあったARグラスでは以下のようなタスクをスマートフォンなしで行え、生活にAIエージェントを溶け込ませることに一役買っており、シームレスな体験となった。
- 目の前の景色への質問
- 道案内をその場で重畳表示
- リアルタイム翻訳
- ARでのミニマルUI操作
日本企業・スタートアップの奮闘
日本勢の展示は規模こそ大きくないものの、ニッチな市場向けの高精度な技術と実際の利用シーンを踏まえた現場実装を強みとしており、世界と異なる存在感を示していた。
とがった技術で勝負する日本メーカー
アルプスアルパインは、視覚障害者支援デバイス、非接触画面操作システム、キーボードの押し込み硬さ可変システムなど、用途が極めて具体的でマニアックな技術が特徴的である。「日本はニッチで勝つ」という方向性を裏付けるような展示だったが、若干のプロダクトアウト感が否めなかったため、どんなターゲット層のどのような課題にどうやってリーチし、ビジネス価値を見いだしていく・生み出していくのかを明確に定義し、事業化までこぎ着けるかが今後の鍵になるだろう。
現場課題を直接解く「実装型スタートアップ」
海外の最先端技術を競う大規模ブースが並ぶ一方で、「現場課題」を正面から解決しようとする日本発スタートアップに筆者は目を引かれた。以下にはすでに紹介したものも含まれているが、どのソリューションも、派手さより「現場で確かに効く価値」に徹底してフォーカスしている点が共通していた。
- QUANDO:現場の熟練工の暗黙知を自動で形式知化し、新人の作業レコメンドまで行うソリューション。日本製造業における技術伝承に活用されている
- Acompany:生成AI利用時の機密情報マスキングを自動化し、生成AI活用における機密情報取り扱いに関する悩みを解消する
- UNTRACKED:転倒リスクスコアリングと結果に応じた体操などのアクションを提案し、製造業における転倒事故およびそれに伴う損害を予防する仕組み。すでに製造現場で導入されており、スコアリング結果に適した体操などを行うことで年間の転倒事故が7件→0件に減少するなどの実績もある。けがによる人員不足でラインが停止し損害が発生することを、単価100万円程度の本システムの導入で防げることは費用対効果が良い
いずれも、現場の痛点に直結した価値提供であり、欧米・中国・韓国の最先端の技術開発とは異なる姿勢が非常に印象的だった。
宇宙という新領域での挑戦
「宇宙を実験場とする企業」が日本にも登場しており、新規ビジネスの波に乗り遅れまいという姿勢が見られた。Innovative Space Carrierの宇宙デジタルツイン構想は、人工衛星に宇宙実験室を搭載させ、宇宙環境下のその室内であらゆる実験や物性変化の記録を行い、将来的なデジタルツイン構築のための下地作りをしている。宇宙空間で生じる物性変化を地上で再現できるようになれば、膨大なコストをかけて実験サンプルを宇宙まで輸送せずにさまざまな商品開発の検証が可能になる。
いくつか宇宙をビジネスターゲットにしている日本企業はちまたでも目にしつつあり、今後、日本企業が宇宙を新たな事業領域として捉え、挑戦を加速させていくことが期待される。
おわりに――「AI × Real」で世界は再び実装フェーズへ
CES 2026を総括すると、2025年までのAI熱狂期を越え、AIが生活・産業の「裏側」に溶け込み、現場に効く形で実装され始めた年だった。
- AIはもはや前提技術(価値の源泉は、どれだけ「現場ドメイン」に入り込めるか)
- AIとロボティクスとの結合が労働構造を変える入口に
- XRは生活デジタルトランスフォーメーション(DX)文脈で存在感を再獲得(日本勢は技術の尖りと現場密着で独自の立ち位置を形成)
これらの潮流は、今後の社会変化に直結するだろう。特に「AIが行動にまで踏み込む世界」へのシフトは、人・産業・都市に至るまでの大規模な変革の呼び水となり、テクノロジーの進化が私たちの生活を変容させる胎動をCES 2026で確かに感じた。
当社では、CESをはじめとした最新テクノロジートレンドを継続的に捉えつつ、単なるレポーティングにとどまらず、「業務に効く視点」で技術の本質を読み解くことを重視している。「AI・ロボティクス・XR・スタートアップ潮流」といった最先端技術を、業務構造や産業構造の変化と結びつけ、クライアントの事業に応用可能な「未来の打ち手」として翻訳することこそ、当社の強みである。
今後も、現場起点の実装知見とテクノロジーのまなざしを両立させながら、クライアントおよび社会の課題解決へ継続的に貢献していきたい。