「AIをどこで使うか」から、「AIでどんな企業をつくるか」へ

— 製造業に求められるAIネイティブへの視点

コンサルタント執筆記事

2026.10.08

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昨今、少ない人数で大きな価値を生み出す企業が相次いで登場し、多くの投資や注目を集めている。中でも、AIを前提に事業や企業活動を設計する「AIネイティブ」と呼ばれる企業の存在は、人手不足や熟練技能の継承、部門ごとに分断されたデータやシステムなどの課題を抱える日本の製造業の今後の在り方を考える上で、多くの示唆を与える。
本稿では、こうしたAIネイティブ企業の特徴と、そこに近づきつつある先進的な製造業の取り組みを整理しながら、AI活用の発展の先にどのような製造業の姿が見えてくるのかを考察する。

1. AI活用は「ツール活用」から「業務を担う」段階へ

AIの技術的発展に伴い、今や業務においてAIが活用されるシーンも珍しくなくなった。製造業においても、AIの活用領域は、需要予測や品質分析から設計案や生産計画を生成し、さらにはロボットや設備を通じて現実世界で判断を伴う行動をする領域へと広がりつつある。複数のAIやシステムを連携させて制御し、工場全体を横断して動かすAIも登場している。

こうした進展を背景に、多くの企業でAIをどの業務に適用し、どのような価値を生み出すかという検討が加速している。その一方で、人がAIを使うだけではなく、AIが業務の中核を担い価値を創出する、いわばAIネイティブな企業も登場し始めている。

このような状況においてこれから問われるのは、「AIを使って業務をどう効率化するか」だけでなく、「AIに何を担わせ、AIを前提に企業をどうつくり変えるか」という視点ではないだろうか。

2. 既存企業でも、AI活用を発展させている企業は増えている

本稿ではAIネイティブな企業を、AI活用を前提として学習ループが継続的に回り、企業の価値創造を持続的に最大化できるよう事業そのものが設計された企業と捉える。(図1参照)

その企業例の1つとして、米Lila Sciences社(リラ・サイエンシズ)を紹介する。同社は、AIを前提とした創薬実験の業務プロセスを構築しているスタートアップ企業である。従来、創薬実験においては、仮説構築、実験、解析のサイクルを人力で回していたため、創薬までに多くの時間と資金を要していた。一方、Lila Sciences社では、マルチモーダルAIモデルと、実験を行うロボットや各種センサーを連携させ、仮説構築、実験、解析といった一連のプロセスの中心にAIを据えることで、AIを前提とした研究開発を再定義した。[1]

物理的な実験領域まで無人で実行することを可能にしているため、ここでは人の役割はAIが駆動するための目的設定や、判断、例外対応に限定される。また、複数拠点の仮説データや実験結果等がクラウド上で共通形式として統合管理されており、さまざまな拠点の情報をインプットに学習がなされていく。実験によって得られた結果が次の仮説構築や実験設計に反映され、さらに新たなデータが蓄積、学習されるというループを継続的に回すことで、研究開発そのものを高度化していく仕組みとなっている。

このように、AIを前提としてプロセスや組織、データの持ち方まで設計し、学習ループを通じて継続的に提供価値を高めていく点が、AIネイティブな事業の特徴である。

図1:AIネイティブな事業の実現イメージ

AIネイティブを掲げているわけではないが、AI活用を大きく進めている製造業の企業もある。米Jabil社(ジェイビル)や米Divergent Technologies社(ディーバージェント・テクノロジーズ)がその例として挙げられる。

Jabil社は、電子機器をはじめ幅広い製品について、設計から製造、サプライチェーンまでを一貫して支援するグローバルな製造サービス企業である。[2]同社では、製造現場の各工程にAIを個別に適用するだけでなく、設計、製造、品質管理などの一連のプロセスにAI活用を広げている。例えば製造現場では、製造仕様や過去の障害情報、トラブルシューティング情報などをAIが横断的に参照し、発生した問題の診断や対処を支援する仕組みを導入しているほか、画像検査や設備、工程データをAIで分析し、不良の検知や原因分析、製造条件の改善にも活用している。こうした取り組みにより、人が個々の情報を収集、分析して判断するのではなく、AIによる分析や示唆を受けながら、問題の把握から原因分析、対処、改善までの一連の業務を進めることが可能になっている。人とAIが協働しながら複数の業務をつなげて価値を生み出す、先進的なAI活用の例として考えられる。

Divergent Technologies社は、航空宇宙、防衛、自動車などに使われる金属や複合材料の構造物を設計、製造する企業である。[3]同社では、Divergent Adaptive Production System(DAPS)と呼ばれるAIを活用した統合生産プラットフォームが中核となり、業務を実行している。DAPSは、「設計ソフトウエアによる自動設計」「設計データに基づく金属3Dプリンティング」「治具を使用しない自動組み立て」を1つの統合プラットフォーム上で接続したシステムであり、顧客の要求を起点として、AIを活用した設計、金属3Dプリンティング、自律的なロボットによる組み立てまでを一気通貫で実現している。既存の設計、製造業務プロセスそれぞれをAI、ソフトウエアにより高度に自動化し、物理的な製造、組み立て領域までその範囲を広げている。Divergent Technologies社では、AIとソフトウエアが担う範囲を設計から製造までさらに広げており、人がAIを活用しながら一連のプロセスを遂行するJabil社よりもさらに先進的なAI活用の例として考えられる。

こうした取り組みは、個別業務へのAI活用から、AIを前提として価値創造の仕組みそのものを構築するAIネイティブへと近づく動きとして捉えることができる。

3. AI活用の先に、そのままAIネイティブがあるわけではない

Lila Sciences社のように、創業時からAIを前提として事業や業務プロセスを設計する企業がある一方、Jabil社やDivergent Technologies社のように、既存の事業や業務を持ちながら、AIの活用領域を段階的に拡大し、価値創造の仕組みそのものを変えていく企業もある。整理すると、企業におけるAIの導入状態はおおよそ5段階のモデルとして捉えられる。すなわち、「顧客への価値提供につながるタスクを人がAIを活用しながら行っている状態」「顧客への価値提供につながるタスクをAIが行っている状態」「顧客への価値提供につながる一連のプロセスを人がAIを活用しながら行っている状態」「顧客への価値提供につながる一連のプロセスをAIが行っている状態」、そして「AIを前提として事業が設計され、AIの活動結果が次の判断/実行や仕組みの改善に還元される学習ループが継続的に回るAIネイティブな状態」と整理できる。なお、ここで示すレベルはAIによる自動化の程度を示すものではなく、人とAIの役割分担を含め、AIが価値創出にどのように組み込まれているかを整理したものである。(図2参照)

図2:AIによる価値創出の実現レベル

高次なAI活用の状態に到達するためには、単に活用するAIを生成AIからAIエージェントやPhysical AIに変更すれば良いわけではない。段階が上がるにつれて、AIが担う業務の範囲が拡大し、そのためにはデータが統合管理されている必要があり、複数のシステムが連携され、AIの担当範囲拡大に合わせて人の役割も再設計することが求められる。変化後の人の役割を担うための人材も必要となり、AIのリスクを管理するためのガバナンスも必要となる。高次のレベルにおいては、企業の活動を支えるあらゆる要素が、AIを中心にレベルアップされている状態が求められる。

また、さらに重要なのは、AIネイティブな状態に到達するためには、単にさまざまな業務にAIを多く活用すれば良いというわけでもないという点だ。AIの能力や適用範囲は段階的に高められる一方で、既存業務への個別のAIの適用を積み上げていくだけでは、AIの活動結果から企業の仕組み自体を改善していくAIネイティブな状態には到達しない。AIネイティブな状態を目指すには、AIを中心として業務を設計するだけでなく、AIの活動結果がデータとして蓄積され、その結果が次の判断/実行や業務プロセスの改善に還元される学習ループを組み込む必要がある。つまり、「既存業務のどこでAIを使うか」だけを起点とするのではなく、「将来AIに何を担わせ、どのような価値創出の仕組みをつくるか」から逆算して、AI活用を考える必要がある。

4. 製造業も「今のAI活用」ではなく「将来のAIの位置づけ」を考える時期に来ている

これまではAIの能力が不透明だったこともあり、多くの企業のAI活用はあくまでも「どの業務でAIを活用し人を支援するか」が問いの中心となっていた。しかし、AIの能力が加速度的に進化し、信頼性の課題は残りつつも業務を実行できる範囲が広がっている昨今では、固定的にAIの位置付けを定めるのではなく、そもそも「将来、自社の中でAIをどのように位置づけるか」から定める必要がある。

少なくとも先の例に挙げたように、AIを自社の価値創出の中核として位置づけ、AIを前提とした企業活動の設計に動き出している企業は存在する。すべての製造業がAIネイティブ企業を目指す必要はないが、重要なのは、AIネイティブを目指すか否かも含め、中長期的にAIに何を担わせどこまで企業活動に組み込むかを定めることである。その姿から逆算して業務、データ、システム、組織、ガバナンスを整備する必要がある。

かつて、システム化の黎明期に部門ごとの個別最適なシステムが乱立し、その後基幹システムを中心に業務そのものを再設計する動きが広がった。AI活用もまた同様の転換期を迎えている。個々の業務にAIを足していくだけでは、企業全体の価値は最大化できない。いま必要なのは、AIをどこで使うかではなく、AIによってどのような企業をつくるかを先に描くことである。AI活用を考える時代から、AIを前提とした企業のあり方を考える時代へ転換しようとしている。

【出典】

[1]Lila Sciences, https://www.lila.ai/tech(参照2026年9月29日)
[2] Jabil (2026), “Jabil at 60: The Making of the Brand Behind the World’s Leading Brands”, https://jabil.com/blog/jabil-60-years-manufacturing-solutions-partner.html(参照2026年9月29日)
[3] Divergent Technologies, https://www.divergent.us/#industries(参照2026年9月29日)