生成AIを活用した営業変革の進め方

~生産性倍増の営業変革に資する生成AI投資にしていくために~

コンサルタント執筆記事

2026.02.16

営業部門を取り巻く環境は、これまでにないスピードで変化している。持続的な成長が経営上の重要テーマとなる中、営業1人当たりの業務負荷は増大し、顧客ニーズの高度化・複雑化によって営業活動の難易度も高まっている。加えて、営業人材の採用難、若手育成、ベテラン営業の暗黙知(属人化)の継承といった組織課題も同時に顕在化しており、従来の延長線上にある改善施策だけでは限界が見え始めている。
こうした状況の中、生成AIは営業活動の効率化・高度化を同時に実現し得る手段として注目を集めている。しかし営業の現場では、個別業務への部分的な導入にとどまり、営業変革にまで結び付いていないケースも少なくない。本稿では、生成AIを単なる業務効率化ツールとしてではなく、営業変革を実現するための手段として捉え、営業責任者・営業企画の立場から、生成AIを活用した営業変革の進め方を整理する。

1. 今なぜ「生成AIを活用した営業変革」が求められているのか?

多くの営業組織は今、待ったなしの「二重の危機」に直面している。

1つは「業務上の課題」である。顧客の課題や購買行動、そして顧客との接点が複雑化し、営業活動そのものの難易度が高まっている(営業業務の高度化)。その一方で、コンプライアンス対応に伴う複雑な社内稟議や、連携されていない複数システムの併用などにより、情報収集や事務処理といった「非営業業務(間接業務)」が煩雑化している。結果として、本来注力すべき顧客への提案活動や関係構築のための時間が圧迫されるという悪循環に陥っている。

もう1つは「組織課題」である。構造的な労働力不足は、もはや一企業の努力では解決困難なレベルに達している。厚生労働省「雇用政策研究会報告書」(2019年)によると、日本の生産年齢人口は2040年には2017年と比較し約20%減少すると予測されている。[1]この減少ペースの中で、企業が現在と同水準の活動を維持・成長させるためには、計算上1人あたり約25%の生産性向上が不可欠となる。

さらに、企業が直面する経営課題として「人材の強化(採用・定着)」や「収益性向上」が上位を占める中、従来のような「人を増やして売り上げを伸ばす」という人海戦術モデルは完全に破綻している。限られたリソース(Input)で、いかに営業成果(Output)を最大化するか。この構造転換こそが、生成AI活用に求められる真の役割である。

図1:多くの営業組織が直面する業務・組織課題

2. 生成AIがもたらす営業変革の本質的インパクト

生成AIの活用は、単なるメール作成の自動化や議事録の要約といった「作業時間の短縮」にとどまらない。戦略的に導入された生成AIは、営業組織に対し、以下の3つの本質的なインパクトをもたらすポテンシャルを秘めている。

図2:生成AIを活用した営業変革による3つの期待効果

①間接業務の効率化による「実質的な増員効果」 

筆者が支援している営業変革プロジェクトでは、一般的な営業担当者の業務時間のうち、本来の「営業活動(付加価値業務)」に充てられているのはわずか30%程度に過ぎず、残りの約70%は、情報収集、資料作成、事務処理、社内会議といった「間接業務」に費やされているといったケースも少なくない。

生成AIはこの間接業務の削減において圧倒的な強みを発揮する。例えば、商談前の企業リサーチや市場分析といった「情報収集」業務の約80%を自動化し、「事務処理」の約90%を生成AIを用い効率化することを見込んだ場合、これらを積み上げることで、間接業務全体を約3分の1(業務時間全体の約22%)まで圧縮することが可能となる。

これにより創出された余力をすべて営業活動にシフトした場合、営業活動時間は従来の30%から約2.6倍の78%へと拡大する計算となる。これを組織全体で捉えると、極めて大きなインパクトが見えてくる。例えば、200名の営業組織において、生成AI活用により営業活動時間を25%増加させることができたとする。これは、新たに50名を採用したのと同等の「活動量(営業リソース)」を生み出したことに他ならない。平均年収を700万円と仮定すれば、採用コストや人件費をかけることなく、年間約3.5億円規模の増員効果(経済価値)を創出したことになる。

②営業活動の高度化による「増収効果」

創出された時間は、単に活動量(営業リソース)を増やすためだけに使われるのではない。生成AIは「質の向上」にも寄与する。営業組織における長年の課題は「属人化」である。優秀なベテラン営業だけが持つ暗黙知(提案の切り口、顧客課題の仮説構築、キラーフレーズなど)は、OJTだけではなかなか若手に継承されない。しかし、生成AIに過去の優秀な提案書や商談記録、成約事例を学習させ、営業活動の各プロセスで「サジェスト(推奨)」させる仕組みを構築できれば、状況は一変する。

例えば、顧客との商談ログをAIが分析し、「次に行うべきアクション」や「提案すべき商材」をレコメンドする。あるいは、提案書作成時に「過去の類似案件で評価されたスライド構成」をAIが提示する。これにより、若手や中堅社員のスキルが底上げされ、組織全体の提案力が均質化・高度化される。結果として、案件ごとの受注確度や受注単価の向上が実現し、増収(事業成長)に直結するのである。

③ES→CS→Salesの好循環サイクル効果

生成AI活用は、組織文化にも好影響を与える。煩雑な事務作業や社内調整から解放され、顧客との対話や提案の練り上げといった「本来取り組むべき創造的な営業活動」に集中できる環境は、営業担当者の「働きがい(ES:Employee Satisfaction)」を大きく向上させる。AIという強力な武器を持ち、自信を持って営業できる環境は、採用市場における自社の魅力(採用力)向上にも寄与するだろう。

そして、モチベーションの高い営業担当者による質の高い提案は、当然ながら「顧客満足度(CS:Customer Satisfaction)」を高める。顧客からの信頼獲得は、リピートオーダーや紹介といった形で最終的に「売り上げ(Sales)」の拡大へと還元される。 「実質的な増員」と「増収」に加え、この「ES→CS→Sales」の好循環サイクルを作り出すことこそが、営業変革の真の目的である。

3. 生成AI導入に向けたリスク・課題への対応

しかし、生成AI活用はバラ色の未来ばかりではない。多くの企業が生成AI導入に踏み切っているものの、現場からは「使いこなせない」や「どんな業務で使えるかイメージが湧かない」といった声が上がり、期待した効果が得られていないケースも散見される。以下のようにリスク・課題に対する適切な対処が必要である。

①技術進化による陳腐化

生成AIの技術進化は日進月歩であり、3年後の姿を予見することは不可能に近い。特定の技術やツールに依存した長期固定的な生成AI投資を行うと、本格展開時には既に時代遅れになってしまうリスクがある。技術の進化を見定めながら、柔軟に導入できる投資判断が求められる。

②生成AI活用の目的・ゴールの不明確化

「他社もやっているから」と、生成AIを導入すること自体が目的化してしまうケースである。これでは、部分的な業務効率化にはなっても、組織全体の変革にはつながらない。「生成AIを活用して、どのような営業スタイルを実現したいのか」「どの指標(KPI)を改善したいのか」という営業変革の目的・ゴールをあらかじめ定義することが不可欠である。

③想定以上の投資

本格的な導入フェーズでは、セキュリティ対策や既存システムとの連携において、当初の想定を大きく超えるコストが発生する可能性がある。すべての業務にAIを適用するのではなく、投資対効果(ROI)の高い領域を見極め、優先順位をつけて導入を進めなければならない。

4. 最小投資で最大効果を狙う生成AI導入戦略と全体アプローチ

これらのリスクを回避し、成功確率を高めるための鍵は「着眼大局・着手小局」のアプローチである。推奨されるのは、全体投資の一部を最初の「構想策定フェーズ」に充てることだ。いきなり生成AI導入のPoCに着手するのではなく、まずは全体像(大局)を描き、優先順位の高い領域から小さく検証(小局)を始める。技術の進化を見定めながら段階的に適用範囲を拡大していく戦略が、最も合理的である。

具体的には、以下の3つのフェーズで推進することを提案する。

図3:生成AIを活用した営業変革のアプローチ

フェーズ1:生成AI構想策定フェーズ
現状の業務を棚卸しし、「どの業務にAIを適用すれば効果が高いか」を分析する。業務構成や業務量、課題認識を可視化した上で、効果(インパクト)と実現性の2軸で優先順位をつけ、変革のロードマップを描く。この「方向づけ」がプロジェクトの成否を握る。

フェーズ2:生成AI導入フェーズ(PoC/PoB)
優先度の高いユースケースに絞り、技術実証(PoC)および実業務実証(PoB)を行う。現場での有用性を検証しながら、徐々に導入を進める。

フェーズ3:生成AI活用定着化・業務変革フェーズ
組織全体に生成AIの本格導入を行い、定着化を図る。単なるツールの利用にとどまらず、営業プロセスそのものを刷新し、フェーズ1で描いた営業変革のゴールを実現する。

5. おわりに|成否を分けるのは何か? 

すでに生成AIを導入している企業においても、「使いこなせていない」「どんな業務で使えるかイメージが湧かない」という声が聞かれる。これは、ツールを導入しただけで「あとは現場で工夫して使ってくれ」と丸投げしてしまっていることが原因であることが多い。また、現場部門だけで進めようとするとセキュリティやガバナンスの壁にぶつかり、DX部門だけで進めると現場の実務に即さない使いにくいツールになってしまうというジレンマもある。

成功のためには、ユーザー部門(営業)とDX部門が連携して取り組むことが重要である。技術はあくまで手段に過ぎない。生成AIを活用した営業変革の成否を分けるのは、「着眼大局(変革の全体像を描くこと)」と「着手小局(小さな成功を積み上げること)」のアプローチにある。「何のために生成AIを使うのか」という問いに対し、経営と現場が共通のビジョンを持ち、スモールスタートで確実な成果を積み上げていくこと。それが、生産性倍増の営業変革を実現する重要な道筋である。

参考文献

[1]厚生労働省(2019年),「雇用政策研究会報告書」,https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204414_00003.html(参照2026年2月12日)

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