売れているのに、なぜ儲からないのか

VUCA時代に今すぐ取り組むべき連結製品別採算管理

コンサルタント執筆記事

2026.07.27

売り上げは伸びているのに、なぜか利益が残らない――。原材料価格や人件費の上昇、為替、関税、物流コストの変動が常態化する今、多くの製造業がこの問いに正面から答えられずにいる。問われているのは、単に原価を把握しているかではなく、どの製品が利益を生み、どの製品が収益を圧迫しているのかを連結ベースで捉え、次の一手につなげられるかである。BOM(部品構成表)や単価マスタ、工程マスタといった現場に存在するオペレーショナルデータを組み合わせれば、連結製品原価は十分に集計しうる。本稿では、VUCA時代に今なぜ連結製品別採算管理が必要なのかに加え、それをどのように可視化し、経営判断に使える形へ落とし込むのかまでを整理する。

はじめに|収益構造は、確実に揺らいでいる

原材料価格、人件費の高騰と変動幅の拡大、為替影響、関税や物流コストの上昇、さらには地政学リスクの顕在化。
これらは一過性の外部要因ではなく、グローバル製造業の収益構造そのものを不安定化させる恒常的リスクとなっている。
こうした環境下で、原材料価格や人件費の上昇を価格に転嫁できない、どの製品が利益を押し上げ、どの製品が利益を毀損しているのか説明できない、という状態に陥っている企業は少なくない。
その背景には、連結ベースで製品別の原価や採算が見えていない、あるいは見えていても意思決定に使われていないという問題がある。
昨今は、関税率の見直しや急激な為替変動、調達/物流の寸断リスクといった外部環境の変化に対し、短時間で影響を見極め、打ち手を選ぶ力がこれまで以上に求められている。そのためグローバル製造業は、連結製品別採算を経営の意思決定に活用する形で可視化するだけでなく、変化を素早くシミュレーションし、収益構造改革戦略、利益最大化戦略の立案と実行、監視につなげるべきであると考える。

1. 原価が『見えない』こと、『使われない』ことが問題である

連結製品別採算を巡る問題は、2つに大別される。
第一に、原価が見えていないことである。
拠点別、工程別、品目別の原価は把握していても、グループ全体として最終製品1単位あたりの連結原価を説明できないケースは多い。
第二に、原価が意思決定に使われていないことである。
仮に数字が存在していても、限られた担当者しか見ていない、会議体で使われない、参考情報にとどまっているのであれば、経営管理情報として機能していない。「原価が見えないこと」「使われないこと」、この双方に対するアプローチが必要である。

2. 完璧な費目の情報を待つべきではない

連結製品別採算を検討すると、販管費や輸送費、関税等の全費目を積み上げないと意思決定ができないという意見が出ることがある。最終的に全費目を含めた製品別採算を可視化すること自体は否定しないが、すべての費目が揃うまで可視化を待ったり、意思決定を止めたりするべきではないと考える。むしろ今、経営が求めているのは、関税、為替、原材料価格変動の影響を短時間で把握できるスピード感あるシミュレーションである。初期段階では、材料費、加工費、関税、為替といった金額への影響や割合が大きく、変動しやすい費目を優先的に可視化すべきである。昨今の環境変化を踏まえると、従来の原価低減管理に加え、外部環境変化が収益に与える影響を即座に見通せることの経営的価値は大きい。なお、金額影響の大小や、可視化したい費目の優先度は、各企業の状況に依存する。

3. オペレーショナルデータを組み合わせて連結原価を集計する

連結製品別原価は、内部取引消去や会計仕訳の延長で作るものではない。
BOM、単価マスタ、工程マスタといったオペレーショナルデータを組み合わせることで、連結視点での製品別原価集計は可能である。
最終製品BOM(最終製造拠点単体BOM)を起点に部品/半製品を展開し、各品目に単価マスタをひもづけ、材料費、加工費を積み上げる。その際、品目コードと取引先コードを用いることで、グループ内外を識別した原価構造を把握し、グループ外の材料費のみを集計することで内部利益が控除された連結原価を集計することができる。

図1:BOMによるグローバル連結原価集計イメージ

ここで重要なのは、会計的に確定した原価ではなく、BOMや単価マスタ等のオペレーショナルデータをベースとし、足元の市況や為替、関税条件を反映した「瞬間風速原価」を把握できることである。
それは会計的な正確性を追求するためではなく、今後をシミュレーションし、値上げ、調達先変更、生産配分見直し、販売施策といった意思決定を迅速に行うために有効だからである。
その精度と実効性を高めるうえでは、特に製品在庫を含む在庫管理を強化し、どの在庫がどのコスト条件を引きずっているかを踏まえてシミュレーションできることが重要となる。加えて、在庫保有に伴う資金負担や金利影響も含めて捉える視点は、今後さらに重要になる。

4. 可視化の成否はアウトプット設計で決まる

連結製品別採算は、作っただけでは意味がない。コーポレート、事業、拠点が同じ数字を見て議論できるアウトプットを設計すべきである。事業からビジネスユニット、製品、国/拠点、品目/工程/取引先へとドリルダウンでき、予算、実績、見通しを同一軸で比較できる事が望ましい。数字は説明のためではなく、議論と意思決定を前に進めるために存在するため、意思決定がなされる会議体に組み込み、会議体で語られるストーリーや対話に合わせたアウトプット定義が必要となる。

5. 公式プロセスに組み込むべき

分析として存在するだけの連結製品別採算に、経営的価値はない。中長期計画立案、年度予算策定、実績収集、予実対比、見通し集計、施策検討といった公式的なプロセスに組み込むことで、連結製品別採算は初めて経営判断を支える数字になる。理想的には、コーポレート⇔事業、事業⇔拠点でのコミュニケーションプロセス、全社価格戦略(新機種価格設定含む)やグローバル販売、PSI戦略等の意思決定プロセスに組み込まれることを期待したい。

6. 全製品管理か、代表製品管理かを戦略的に選ぶ

商材数の多いグローバル製造業では、全製品を一度に管理することが現実的でない場合も多い。売り上げや利益への影響が大きい代表製品から管理を始め、運用を定着させたうえで段階的に対象を広げることもスモールスタートの一つの手法である。一方で、事業利益の変動をロジカルに分析するにあたり、事業利益の大半を網羅している必要はあるため、代表製品利益がほとんどの利益を占めていることが前提であり、可能であれば全製品を管理対象とする方が現実的ではある。

7. 限界利益を軸に設計すべきである

連結製品別採算は、限界利益管理との相性が良く、一つの管理体系としておすすめしたい。製品別採算を改善するのに個々製品で変更しやすいのは、販売価格、販売数量、直接材料費、変動加工費(直接作業変動費用、外注加工費、品質検査費用等)といったバリュードライバーが挙げられる。
これらのバリュードライバーを調整した結果、損益分岐点分析による固定費回収、限界利益確保の確認を行うことが賢明であると考える。一方で、変動費の低減によって採算が改善し切れない場合は、固定費の見直しや製品ポートフォリオの見直し等の収益構造の根本改善に踏み切るべきである。数量や価格を動かした際の利益影響を明確化したうえで、短期的な利益確保のための意思決定と中長期的な固定費投資判断の双方に連結製品別採算管理を活用したい。

8. 意思決定に資するのは、将来の原価・採算である

連結製品別採算管理を経営判断に活用するためには、過去の実績情報だけでは不十分である。実績は過去の結果を説明し、差異を検証するうえでは有効だが、価格改定、調達先変更、生産配分見直し、製品Mix変更といった意思決定に必要なのは、これから発生しうる原価、採算を見通すための予定情報である。

将来の原価・採算は、為替、関税、原材料価格、物流費、販売数量、製品Mix、調達先、生産拠点、在庫水準等の前提によって大きく変動する。そのため、単一の数字を確認するのではなく、複数のパラメーターを変化させながらシナリオを比較し、どの要素が採算を押し上げ、どの要素が採算を毀損するのかを把握する必要がある。

この試算を高度化するうえで、AIの活用余地は大きい。AIを活用すれば、前提条件の更新、精度の高い複数シナリオの作成を迅速に行うことができる。発展的に外部情報や需要予測データを基盤に取り込むことができれば、AIによって内部データと外部データを組み合わせた将来値の試算も可能である。

図2:将来予測型のシナリオ/シミュレーションモデル(例示)

9. スモールスタートは、拡張を前提に設計すべきである

最後に、取り組みの効果を出すためには、スモールスタートが非常に重要であることをお伝えしたい。
初期は割り切る。しかし将来、

・優先費目→全費目
・代表製品→全製品
・最終製品別(連結管理)→+α 拠点出荷品目別(単体管理、仕切価格調整)
・半期/四半期管理→月次管理
・内部オペレーショナルデータシミュレーション→+α 需要予測、外部情報シミュレーション
・全社/事業損益等のFP&A(財務計画/分析)情報の高度化→+α グローバルPSI(生産/販売/在庫)/S&OP(販売/事業計画)との統合
・セールスミックス調整/値付け→+α 在庫を織り込んだアロケーション判断

へ進化できる設計思想/拡張性を、最初から持ちつつ本件には取り組むべきであると考える。
とりわけ、外部環境が短期間で変化する局面では、需要予測、在庫、為替、関税条件まで段階的に取り込み、シミュレーションの速度と精度を高めていける拡張性が重要である。

図3:ビジネスの根幹である製品別管理の導入ロードマップ

おわりに|連結製品別採算は今すぐ着手すべき経営課題である

連結製品別採算管理は高度な分析テーマではない。
現在既に活用されているオペレーショナルデータを組み合わせて可視化できる可能性が高い領域であり、製造業における製品別採算という経営者が最優先で見るべき付加価値の源泉情報である。不確実な環境下でも、経営が迷わず判断するための最低限の装備であり、原価が見えない、使われていない状態を放置すべきではない。
特に今は、関税、為替、地政学リスク、そして金利を含む外部環境変化が収益を大きく揺さぶる時代であり、会計結果を待つだけでは経営判断が遅れる。
今求められているのは、スモールスタートであっても、まずは実装され、使われ、拡張していける経営管理基盤であり、その情報を用いて、価格改定、製品Mix、調達先や生産配分の見直し、重点販売製品の選定、アロケーションといった意思決定を迅速に行えるようにすることである。