【野村不動産ホールディングス】 単なる“引っ越し”で終わらせない。8社・約3,500名の本社移転で挑んだデジタル活用による働き方の再設計

事例

2026.08.27

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野村不動産ホールディングス

不動産業(東証プライム上場)

2025年8月、野村不動産グループは「BLUE FRONT SHIBAURA TOWER S」へ約50年ぶりに本社を移転しました。グループ8社・約3,500名が動く一大プロジェクトでした。同社はこれを単なる移転で終わらせず、働き方やグループ連携のあり方を見直す改革の起点に据えました。背景にあったのは、組織や会社が複数拠点・複数フロアに分散し、同じ会社の中でさえ接点が生まれにくくなっていたことです。こうした状況を変え、グループの成長につながる「場」をつくる、すなわち“クロスボーダー”を実装するには、空間設計だけでなく、働き方の将来像を描き、コミュニケーションのあり方まで見直す必要がありました。
フォーティエンスは、働く場所やシーンに応じたデジタル/AV機器の整備やICT環境の構築から支援を開始。そこから、音声コミュニケーション環境の将来像構想、バックオフィス業務設計、さらには移転プロジェクトの運営支援(PMO)へと広がりました。軸となったのは、個別の仕組みを入れるだけでなく、「全体としてどうあるべきか」を見極め、将来像から逆算して変化を定着させることでした。
本稿では、野村不動産側4名とフォーティエンス側3名の対話を通じて、本社移転をグループ成長の起点に変えたプロジェクトの全体像を追います。

課題

  • 移転をデジタル活用による新たな働き方の起点にするには、「移転」×「デジタル/ICT」の知見と、「全体としてどうあるべきか」という視点での構想と実行力が必要だった。
  • スケジュールの前倒しや変更が続く流動的な状況下で、短期間に要件を固め、ベンダー選定から工事までを一気に推進する必要があった。
  • 8社・約3,500名の移転に伴う運営負荷(問い合わせ・情報発信・手順整備)が大きく、推進側がコア業務に集中しにくかった。

成果

  • 移転後の従業員アンケートで、「デジタル/AV機器がオフィスの使いやすさ・働きやすさにつながっている」と回答した割合が、移転前の38%から59%へ上昇した。
  • 工事面でベンダー2社の役割分担・調整を進め、品質を確保しながら、コストを当初の想定より低く抑えることができた。
  • 8社・約3,500名の移転運営を回す仕組みを整備し、推進側の運営負荷を軽減した。

対談者

野村不動産 グループオフィス戦略室 室長

春日 倫 氏

野村不動産 グループオフィス戦略室 推進課長

橋本 葉子 氏

野村不動産 グループ総務部 総務一課 課長

藤田 平 氏

野村不動産 グループオフィス戦略室 推進課 主任

林田 晃典 氏

フォーティエンスコンサルティング シニアマネージャー 

宮澤 聡

フォーティエンスコンサルティング マネージャー 

片山 拓

フォーティエンスコンサルティング コンサルタント 

中村 水晶

約50年ぶりの本社移転を、なぜ単なる「引っ越し」だけで終わらせなかったのか

――まず、本社移転の背景から教えてください。

春日氏:移転の検討自体は2019年ごろから始まっていました。1978年に新宿野村ビルに本社を構えて以来、会社やグループの規模拡大に伴って、気づけば同じビル内だけでも20フロア近くに分散し、それでも足りず周辺ビルにも拠点が広がっていました。結果として、グループ会社同士はもちろん、同じ会社の中でも日常的な接点が持ちにくい状況になっていたんです。そこで、約50年ぶりの大規模な本社移転を、単なる引っ越しではなく、グループの更なる成長につながるきっかけにしたいと考えました。

野村不動産 グループオフィス戦略室 室長 春日 倫 氏 2022年10月に本プロジェクトへ着任。グループ会社である野村不動産投資顧問での経験を経て、室長として本社移転プロジェクト全般を統括し、経営とのコミュニケーションも担った。

――「引っ越し」ではなく、「改革の機会」にしようとした理由は何でしょうか。

春日氏:ちょうど移転を決めた2022年に、中長期経営計画で「まだ見ぬ、Life & Time Developerへ」という方向性を掲げていました。不動産という枠だけでなく、お客さまの生活や時間をよりよくする価値を提供していくには、グループ内の連携を強め、これまでにない事業の広がりを生み出していく必要があります。今回の移転は、まさにその起点にしたかったのです。

――移転前の働き方で、現場の皆さんはどんな課題を感じていましたか。

橋本氏:正直に言うと、困っていることにすら気づけていていなかった、というのが実態だったかもしれません。分断されていたので、自分の部署のことに集中するのが当たり前で、ほかの部署との接点がないこと自体を問題として認識しにくかったんです。

野村不動産 グループオフィス戦略室 推進課長 橋本 葉子氏 本社移転プロジェクトの全体統括として、設計・進捗管理を担当。各グループ会社との連携や社内調整など、プロジェクト推進の実務を幅広く担った。
野村不動産 グループ総務部 総務一課 課長 藤田 平氏 現在はグループ総務部に所属し、オフィス戦略室を兼務。プロジェクト当初はICT部門の立場から参画し、新本社におけるデジタル/ICT環境の構築を担当した。

林田氏:私自身、オフィス戦略室に異動した当初、その部署がどこにあるのかも分からなかったくらいでした。どこに誰がいるのか、何人いるのかも見えにくい。それが移転前のリアルな状況だったと思います。

藤田氏:ある意味では、その状態でも仕事は回っていたので、「これでうまくできている」と思っていた部分もありました。では新しい働き方にどう変えていくのか、と言われると、自分たちだけでは答えを持てていませんでした。

野村不動産 グループオフィス戦略室 推進課 主任 林田 晃典氏 オフィス戦略室で3年間にわたり移転関連業務に従事。デジタル/ICT 環境構築に加え、移転前のトライアルオフィス運営も担当し、現場視点で新しい働き方の検証を進めた。

新オフィスのイメージ

真に解くべき問題は、働き方とワークプレイス全体の再設計

――フォーティエンスへの依頼に至った経緯を教えてください。

藤田氏:本社移転に伴い、グループ8社・約3,500名の新たな働き方を支えるため、場所やシーンに応じたデジタル/AV機器の整備やICT環境の構築が必要で、その規模は非常に大きいものでした。具体的には、執務エリアのモニターをはじめ、一般的な会議室や大型会議室、オープンエリアの特性に応じたモニター、マイク、スピーカー、カメラ、さらにそれらを用いたリモート会議システム、会議室の予定と連携した会議室前の予約表示システム、スタジオ設備、モバイルバッテリーなど多岐にわたります。これらを社内だけで進めるのは非常に難しいと感じました。自分たちが主体的に進めなければいけない一方で、何をどう決めればいいかが見えていなかった。ITベンダーや工事会社にも相談しましたが、提案はあっても「では、今やるべきことは何か」まで腹落ちする形では出てこなかったんです。

橋本氏:実際、いろいろな会社に話を聞きました。ただ、デジタル単体ではなく「移転」と「デジタル」を一緒に見てくれたのが、唯一、フォーティエンスの宮澤さんだったんです。どのタイミングまでに何を決める必要があるかという時間軸も明確で、支援できる範囲もはっきり示してくれた。一番の決め手は、最後に「大丈夫ですよ」と言ってくれたことでしょうか(笑)。もちろん、最初にお会いしたときから、プレゼンが非常に分かりやすかったですし、「こう進めればいける」という道筋を見せていただけた。それも大きかったです。

役職員の働くシーンや来客対応に対し、どのような体験・価値がデジタルによって実現できるかのコンセプトから具体的な要件を固めていった

――トライアルオフィスの段階では、どんな課題が見えていたのでしょうか。

橋本氏:トライアルオフィスでは、個別のツールや機器の検証が中心でした。ただ、新本社は、目的や全体構成を踏まえて設計したかった。直接発注では自分たちの知識が足りないので、コンサルティング会社は必ず必要だろうと考えていました。

宮澤:新たな働き方を支えるうえで、解くべき問題は単なる設備の導入ではありません。目指すデジタルを活用した働き方をどう実現するのか、そのためにワークプレイスをどう再設計するのかを見極め、将来像を描いたうえで今回の選択肢を決めることです。そこを一緒に整理して進めました。

具体的には、まずB工事*に向けた概算を短期間で出す必要がありました。レイアウトを基に、過去事例の知見から「この部屋にはこれが必要になるはず」という仮説を立てて概算を作り、その後に各部屋・各エリアの要件を細かく固めていった。そこからRFPを出し、ベンダー選定、そしてコスト・スケジュール・品質管理までを一貫して支援しました。

*B工事:オフィスで機器を入れるために、天井・壁の中(建物側)に手を入れる工事(例:補強、配線ルート確保、電源追加など)

フォーティエンスコンサルティング シニアマネージャー 宮澤 聡 デジタル領域の構想段階から参画。図面作成、要件整理、ベンダー選定、合意形成、工事管理、導入支援まで一貫して伴走した。

重要なのは、「全体としてどうあるべきか」という視点

――最初のデジタル/ICT環境構築のプロジェクトは、かなりタイトなスケジュールだったと聞いています。

片山:もともとの移転スケジュール自体も前倒しになっていたので、最初からトップスピードでした。B工事へのインプット期限が迫っていて、その後も短期間で要件を固め、ベンダー選定まで進める必要がありました。本来ならもっと時間をかける工程を、かなり圧縮して進めたかたちです。レイアウトや設計が動き続ける中で、デジタル側も並行して検討していったので、変更も多かった。その分、こちらも可能な限り速く動きました。結果として、その初動のスピードや精度を評価いただき、支援範囲が広がっていったのだと感じています。

フォーティエンスコンサルティング マネージャー 片山 拓 デジタル/ICT 領域の実務推進を担当。要件具体化、会議ファシリテーション、ベンダー調整を担い、社員にとって使いやすい環境づくりを現場目線で支えた。

――そこから、支援はどのように広がっていったのでしょうか。

片山:デジタルだけでなく、音声コミュニケーション環境の将来像構想、受付や各フロア運営を含むバックオフィス業務設計、さらに移転推進全体の支援(PMO)へと広がっていきました。移転では、個別の仕組みを入れるだけでなく、「全体としてどうあるべきか」を見ないと、結局は元の働き方に戻ってしまう。その観点が重要でした。

藤田氏:音声コミュニケーション環境もまさにそうでした。固定席前提の電話運用を、新しい本社にはそのまま持ち込めません。お客さまからの電話を止めず、なおかつ新しい働き方に合う仕組みにするにはどうするか。そこを現場ヒアリングから一緒に考えてもらえたので、方向性を早く決められました。

「社員より社員であれ」 広がるフォーティエンスへの信頼

――フォーティエンスの支援が広がった理由を、野村不動産側ではどう見ていますか。

橋本氏:いちばん大きかったのは、対応の速さとキャッチアップの速さです。しかも、受託者としてではなく、自分ごととして野村不動産の立場で考えて提案してくださった。デジタルでその実感があったので、音声コミュニケーション環境構想や移転推進の運営側でも相談が広がっていきました。

春日氏:先にデジタルでご一緒していたので、こちらもフォーティエンスの良さが分かっていましたし、本プロジェクトの一部を理解していただけていた。ゼロから別会社に依頼するのとは、スタート地点が違いました。

――移転推進の運営支援について教えてください。

宮澤:デジタルなどのご支援をしていく中で、2025年8月の移転本格化に向けて、限られた推進メンバーでいかにタスクの抜け漏れなく、効率的かつ混乱なく移転本番を迎えるか、という課題感をご相談いただきました。新本社で新たな働き方を着実に推進するためには、移転をどう迎えるかも重要なポイントとなりますし、我々としても移転推進に関わるケイパビリティを持っておりましたのでご提案に至りました。

中村:8社・約3,500名の移転になると、社員の皆さんから「新本社でこれはどういう運用になるのか」など、様々な問い合わせが電話、メール、チャットで絶えず届きます。ただ、オフィス戦略室の皆さんには、それとは別にレイアウトや運用など決めなければならないことが山ほどある。そこで、問い合わせ経路を整理し、情報発信のためのサイトを立ち上げ、決まったことを、必要なタイミングで順次マニュアル化して発信する仕組みを整えました。

フォーティエンスコンサルティング コンサルタント 中村水晶 2025年1月から参画。8社・約3,500名への情報展開、全体スケジュール管理、問い合わせ対応導線の整備、説明会やマニュアル整備など、移転推進全体の運営基盤づくりを支援した。

橋本氏:各グループ会社向けの説明会も計14回やっていますし、日程調整、アジェンダ作成、資料格納、社内向けの情報発信まわりまで中村さんに支えていただきました。個別に来ていた問い合わせを1つのチャンネルに集約できた効果は本当に大きかったです。

中村:意識していたのは、皆さんの工数を減らすことです。こちらで集められる情報は先に集めて、「ここだけ決めていただければ進みます」という状態でお渡しする。そうすることで、現場の皆さんが本来やるべき判断に集中できるようにしたかったんです。

片山:私たちの中では「社員より社員であれ」という言葉がひとつの軸でした。その会社にとっていちばん良い選択は何かをまず考える。ベンダー提案も、そのまま受けるのではなく、本当に社員にとって必要かという目線で見極めることを意識していました。

移転に伴う問い合わせ対応や情報発信の負荷を軽減し、コア業務に集中できる環境を整備。あわせて、新社屋において社員が迷わず働ける運用基盤を構築し、新しい働き方に向けた円滑な立ち上がりを支援した

数字で見える成果、数字では測れない成果

――今回の支援で、どんな成果がありましたか。

林田氏:デジタル面では、大きく2つあります。1つは社員にとっての使いやすさです。移転後に前後比較のアンケートを取ったところ、「デジタル/AV機器がオフィスの使いやすさ・働きやすさにつながっている」という評価が移転前の38%から59%まで上がりました。もう1つは工事面で、ベンダー2社の役割分担や調整をうまく進めていただき、品質とコストの両立につながりました。金額面でも、当初の想定より低く抑えることができました。

橋本氏:デジタルの定例会だけでも80回以上やっていて、それ以外のスピンオフ会議もかなりありました。そのファシリテーションや整理を片山さんが実質こちらの社員のように担ってくれた。非常に大きな支えになりました。

片山:私たちとしても、ベンダー提案をそのまま通すのではなく、本当に必要か、社員にとって価値があるかという目線で見ていました。時にはデザインや仕様とぶつかる場面もありましたが、野村不動産様の立場に立って本質的な課題解決になることを意識していました。

――移転推進の運営・情報発信面の成果はいかがですか。

橋本氏:問い合わせチャネルの集約、イントラサイトの構築、オフィス利用・運用マニュアル作成、この3つは非常に大きかったです。特にマニュアルは、私たちは情報を持っていても、それをきれいにアウトプットする余裕がない。そこを中村さんに投げると、1が10になって返ってくる感覚でした。委託先というより、完全にパートナーでしたね。

藤田氏:総務の立場から見ても、分かりやすいオフィス利用・運用マニュアルをつくっていただいたことは大きかったです。言葉だけでは伝わらないところを、ビジュアルで表現してくれた。その価値は、移転後しばらく経った今でも生きています。

中村:移転に関わる情報発信というのは、新しい働き方を社員の皆さんに実践していただくための橋渡しだと考えていました。新しい設備やシステムを入れただけでは変わらないので、どう使って欲しいのかまで社員の皆さんに訴求できることを意識して支援しました。

橋本氏:今回、フォーティエンスの皆さんには、本当に社員のように入り込んでいただきました。打ち合わせの最中に資料が更新され、困りごとを相談すると複数の選択肢が整理されて返ってくる。そのスピード感と解像度が、最後まで安心感につながっていました。他部署からの相談も増えており、胸を張って紹介しています。困った時に思い出す存在として、今後も相談に乗っていただきたいです。

「クロスボーダー」をどう実装していくか――移転後の課題と展望

――最後に、移転後の課題と今後の展望を教えてください。

橋本氏:新本社での新しい働き方を回すための基盤は整いましたが、これで完成ではありません。運用を見ながら課題を拾い、改善を続けていく必要があります。デジタルも入れて終わりではなく、使われ方に合わせて進化させたい。改善サイクルを回しながら、一歩ずつ進めていきたいと思っています。

春日氏:今回の移転は、約50年ぶりとなる本社移転を、単に場所が変わっただけで終わらせるのではなく、社員、チーム、組織、そしてグループの成長につなげるきっかけにしたいという思いで進めてきました。そのために掲げたコンセプトが「クロスボーダー」です。今まで物理的な分散によって十分に実現できていなかったグループシナジーを、組織の壁を越えて高めていきたいと考えています。

ただし、移転したからといって、それがすぐ実現するわけではありません。社員一人ひとりが自分のことだけでなく、周囲への関心や思いやりを持ち、部分最適ではなく全体最適の視点を持つことが必要です。どんな働き方がよいのか、どんなオフィスがよいのかにゴールはありません。


※本記事の掲載内容は取材当時(2026年3月)の情報に基づいています。公開時点では、役職・所属等が変更となっている可能性があります。

参考情報
ニュースリリース 2026年8月27日
フォーティエンスコンサルティング、野村不動産グループの本社移転を通じた新たな働き方の実現を支援
~グループ8社・約3,500名規模の移転において、新オフィスのデジタル/AV機器およびICT環境構築と業務継続を支える周辺運用、移転プロジェクト推進を支援~
https://www.fortience.com/company/newsroom/20260827/

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