FMCGトレンド:消費財メーカーにおけるSCM需給モデル再構築の動向

数量最適化から収益最適化への転換と製販協働S&OPモデル

コンサルタント執筆記事

2026.04.15

消費財(FMCG:Fast Moving Consumer Goods)メーカーのサプライチェーンマネジメント(SCM)需給モデルは、ストックキーピングユニット(SKU)増加や販売促進活動の高度化、サプライチェーンリスクの高まりにより、従来の数量最適化から収益最適化への転換が求められている。本稿では、需給モデルの構造的限界を整理した上で、S&OP(Sales and Operation Planning:販売事業計画)を中核とした収益起点の意思決定、流通在庫の可視化、需要予測の高度化、調達・在庫戦略の最適化等を目的とした再構築のアプローチを提示する。需給を単なる調整機能から価値創出機能へ再定義することが、今後の競争優位を左右する重要な要素となる。

1. はじめに

近年、消費財メーカーにおけるCMの需給デルは、構造的な転換局面に直面している。
SKUの増加・複雑化、販促・特売施策の増加、ECチャネルの拡大に加え、地政学リスクの高まりや原材料価格のボラティリティ(変動率)上昇により、従来の需給モデルを支えてきた前提は大きく変化している。

従来の需給管理は、「需要予測→PSI(*1)計画→在庫調整」というプロセスを基盤とし、欠品の最小化および在庫削減を目的とした「数量最適化」を志向してきた。しかしながら、需要構造および供給制約の不確実性が増大する現代の経営環境において、このアプローチは必ずしも十分な成果をもたらしていない。

例えば、ある消費財メーカーにおいては、販促施策の強化により出荷数量は増加しているにもかかわらず、利益率が継続的に低下する現象が確認された。その要因として、需要の前倒しと反動減それに伴う調整コスト増、流通在庫の滞留、賞味期限切れによる廃棄ロスの増加が複合的に作用していた。すなわち、「セル(*2)インベースでは販売が拡大しているにもかかわらず、収益は創出していない」という構造的問題を示唆している。


(*1)PSIとは、調達(Purchase)/製造(Production)、販売(Sales)/運搬(Shipment)、在庫(Inventory)の略称
(*2)セルイン(Sell-in)とは、メーカーが自社製品を小売店や卸売業者に販売(出荷)すること。メーカーの売り上げ計上ポイントとなる。セルアウト (Sell-out)は、小売店が消費者(エンドユーザー)に商品を販売することで、実売り上げや実売実績とも呼ばれる。

2. 従来型需給モデルの構造的限界

従来の消費財メーカーにおける需給モデルは、主として以下の3点を中核として構築されてきた。

  • 需要予測を起点としたPSI数量ベースの需給調整
  • 欠品最小化を最優先とする供給安定性の確保
  • 在庫水準の最適化を通じたコスト削減

これらの枠組みは、需要が比較的安定していた環境下においては有効に機能してきた。しかしながら、現在の市場環境においては、以下の4つのような構造的課題が顕在化している。

第一に、販促・特売施策の増加・複雑化に伴う需要の非連続性の増大である。短期的な需要の押し上げとその反動減が繰り返されることで、従来の統計的需要予測の精度は低下している。

第二に、多層的な流通構造に起因する在庫の不透明性である。卸売業者を含む中間流通における在庫がブラックボックス化し、実需と出荷の乖離が恒常的に発生している(ブルウィップ効果)。

第三に、製品ポートフォリオの複雑化である。SKU数の増加に加え、アカウント専用商材など製品仕様の個別化が増える中で、原材料・資材調達の柔軟性低下から製品ごとの収益性および在庫リスクが多様化し、単一の在庫政策では最適化が困難となっている。

第四に、原料資材を含めた海外調達比率が増加する中で、グローバル調達に伴う地政学リスクやサプライチェーンリスクが増加し、最新の原料資材調達コスト・経営インパクトシミュレーションとタイムリーかつ機動的な意思決定の必要性が増している。

これらの要因により、数量最適化を前提とした需給モデルは、収益性の観点から必ずしも最適な意思決定を導かない構造となっている。

3. 収益最適化型需給モデルへの転換

このような環境変化を踏まえ、需給モデルは「数量」から「収益」を起点とした意思決定へと転換する必要がある。本稿では、これを「収益最適化型需給モデル」と定義する。

本モデルは、以下の3つの特長を持つ。

  • 需給調整の目的を収益最大化に再定義する点である。すなわち、供給配分や販促施策の評価において、売上高ではなく利益貢献度を主要指標とする。
  • シナリオベースの意思決定である。需要および供給の不確実性を前提とし、複数のシナリオに基づく収益シミュレーションを行う。
  • エンドツーエンドでのサプライチェーン可視化である。原材料調達から製造、消費に至るまでの在庫および需要情報を統合的に把握し、意思決定に反映させる。

このモデルへの転換は、単なる業務改善やシステム導入ではなく、意思決定の考え方・基準およびプロセスそのものの再設計を伴う経営変革である。

4. 需給モデル再構築の主要アプローチ

収益最適化型需給モデルを実現するためには、以下の4つの構造改革が必要である。

  1.  収益起点の意思決定と製販協働プランニング(S&OP高度化)
  2.  流通在庫の可視化
  3.  需要予測・販売計画の再定義
  4.  在庫デカップリングポイントの最適化と調達計画の高度化

それぞれ、取り組み例などを交え、解説する。

4.1 収益起点の意思決定と製販協働プランニング(S&OP高度化)

需給調整プロセスを、数量ギャップ解消の場から収益最大化の意思決定プロセスへと進化させる必要がある。具体的には、SKU別の収益性可視化や販促ROI(投資対効果)評価と照らし、セールス部門とSCM部門が複数シナリオを基に調整しながら販売・生産ミックスを調整・最適化するなどだ。

例えば、ある消費財メーカーでは、SKU別粗利を可視化した結果、売り上げ上位20%の商品が利益の80%を生んでいる一方、販促依存SKUが収益を毀損していることが判明した。これは、流通の棚・売り場を維持し生産ボリュームを稼ぐ「数量」の視点に加えて、収益性の視点で何を優先的に供給し、どのようにトータルの収益性を維持・拡大するかといった販売・生産ミックスの調整まで踏みこんでいないことで、ボトムラインの確保が困難となっている事例であるが、実は多くの消費財メーカーで見られる典型的な事象である。

多くのメーカーではセールス部門とSCM部門において、個別のミッション・KPIを持っており、時には相反する調整も発生し、ともすると部門間に「壁」ができてしまい、収益最大化という共通の全体最適という目的を見失いがちである。こうした状況を転換するためにも、数量重視のKPIから収益最大化観点のKPI再設定を行い、セールス部門とSCM部門横断での協働意思決定プロセス整備が必要となる。

4.2 流通在庫の可視化

POSデータおよび卸在庫データを統合し、流通在庫の可視化を実現することで、実需と出荷の乖離を是正する。これにより、ブルウィップ効果の抑制および在庫最適化が期待される。

ある消費財メーカーでは、「売れているはずなのに追加受注が来ない」という現象が頻発していた。調査の結果、卸在庫が過剰に積み上がっており、実需は伸びていなかったことが判明した。この企業では、卸の受け払いと在庫データを統合し、週次で「流通在庫日数」をモニタリングする仕組みを導入し、結果、過剰出荷が削減された。また、販促の見直しも行い、単発の売り上げ押し上げを目的とした施策から、販促後の需要減少(カニバリ・反動減)を考慮した計画へと転換した。

上記のような卸・小売りを含めた流通在庫の可視化は、古くから課題として認識されていた。これまでにも一部の先進メーカーでは、大手卸のデータ取得や、中小卸に対するセールスによる定期的な情報ヒアリングの実施、自社出荷データとPOSデータによる流通在庫の推定などに取り組んでいる。また、近年では小売りのアカウント営業が、有償化を含め自社サプライチェーンデータを積極的に開示するようになっており、以前に比べると鮮度が高いデータ入手のハードルは下がってきている。

4.3 需要予測・販売計画の再定義

販促・特売施策や価格変動を織り込んだ動的な販売計画モデルへの転換が求められる。価格弾性分析や回帰分析を活用し、ベースライン需要と販促効果(アップリフト)を分解・推計することが重要である。

これまでも、チラシ特売やクーポンキャンペーンを行うなど各種販促の企画に応じて、該当SKUの出荷拠点の計画に対して、営業部門や営業企画部門が追加増分数量を連携するなどして、SCM需給計画に反映するプロセスで運用しているところは存在した。しかしこうした取り組みは営業担当のノウハウに依存し限界がある点と、各種の計画・実績データが蓄積・共有・学習・活用できない点に課題がある。このことから近年では各種販促企画内容(プロモーション種別、対象SKU、対象アカウント、対象期間、条件)と販売実績データをひもづけて価格弾性値分析や重回帰分析などの統計処理を行い、ベースライン数量とアップリフト数量を推計させ、事前にROIシミュレーションを行えるようなITソリューションなども活用され始めており、セールス側のトレードプロモーション計画と連携したより高度な販売計画立案モデルも運用レベルになりつつある。

4.4 在庫デカップリングポイントの最適化と調達計画の高度化

完成品在庫中心のモデルから、半製品・原材料在庫を含めた在庫配置最適化へ転換する。さらにPSIと連動した調達シミュレーションにより、調達を収益レバーとして活用する。

従来の消費財メーカーのSCM需給モデルは自社生産拠点から全国をカバーする物流拠点への製品在庫の前方配置を前提にした欠品の最小化と安全在庫の最適化となっており、上流工程である原料在庫、資材在庫、仕掛品とのコントロールが分断され、エンドツーエンドでの棚卸し資産在庫最適化、在庫デカップリングポイントの最適化までは踏む込めていないことが多い。また、最新PSI計画と連動した原材料調達シミュレーションと、為替や市況変動を踏まえたコスト影響を評価した上で、機動的に原材料調達・在庫保有の意思決定を行う事が、多くの企業で喫緊の課題となっている。

ある消費財メーカーでは従来VMI(Vendor Managed Inventory:ベンダー主導型在庫管理)運用を中心に行っていた資材在庫について、海外分を含めた資材の安定調達および需要変動吸収対応を企図して資材の戦略的在庫保有へ転換し、これと連動した形で製品在庫の安全在庫基準の見直しを行っている。

5. 実行基盤の整備

需給モデル再構築の実現には、業務プロセス、組織、データ、システムの統合的な整備が不可欠である。
特に重要なのは、S&OPプロセスを中核と部門横断の意思決定プロセスの確立と、責任・権限およびKPIの再定義である。加えて、マスタデータ統合およびデータ基盤整備により、スピーディーでタイムリーな意思決定を可能とする必要がある。

肝要なのは、単なるデジタル化ではなく、「意思決定の仕組みそのもの」を再設計する点にある。

6. おわりに

不確実性が常態化する経営環境において、需給管理はもはや単なるオペレーション機能ではない。企業の収益性および競争優位を左右する、極めて重要な経営機能である。

収益起点の意思決定、エンドツーエンドの可視化、シナリオベースの分析を統合した需給モデルの構築が、今後の消費財メーカーにとって不可欠な経営課題となり、需給を「調整業務」から「価値創出機能」へと再定義・再構築できるか否かが、消費財メーカーの競争力を大きく左右するであろう。

今後も、消費財メーカーのSCM戦略、S&OP導入、トレードセールス改革、調達・ソーシング改革、DX推進を多数支援してきた知見を基に、消費財業界に対する専門性と洞察を共有したい。本稿が皆さまのプロジェクト成功の一助となる事を心より願って。

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https://www.fortience.com/solutions/consumer-products/trade-promotion-management/