実運用フェーズへ:エージェントAIが変える消費財DX

Google Cloud Next '26現地レポートと3つの示唆

コンサルタント執筆記事

2026.05.01

2026年4月、米ラスベガスにてGoogle Cloudの年次カンファレンス「Google Cloud Next '26」が開催された。今年のテーマは明確であり、AIのフェーズが「実験・実証」から、自律的に業務を完遂する「エージェントAIの実運用」へと完全に移行したことを強く印象付ける場となった。

本稿では大きく2つのパートに分け、カンファレンスの全貌をひも解いていく。
パート①では、熱気に包まれたKeynote(基調講演)やEXPO(展示会場)、そしてネットワーキングの場であるNext at Nightの様子など、現地のリアルな空気感を写真と共にレポートする。
続くパート②では、「Gemini Enterpriseによる現場主導のAI開発」や「エージェンティック・コマース」、そして「SAPとのゼロコピーデータ連携」といった最新セッションから当社のコンサルタントが現地で得た情報をもとに、特に消費財メーカーにおけるビジネスへの示唆をまとめる。

次世代のDX戦略を検討するリーダー層にとって、本稿が一助となれば幸いである。

はじめに

Google Cloud Nextは、Googleが主催する同社最大規模の年次カンファレンスである。クラウド、データ、そしてAI領域における最新の発表やビジョンが提示される場として、世界中のITリーダーや開発者の注目を一心に集めている。

今回の「Next ’26」では、AIが実運用へと移行した「エージェントAI(Agentic AI)」を中核に、インフラからアプリケーションに至るまで多岐にわたる革新的な技術が発表された。

大まかなイベントスケジュールは以下の通りである。本稿では特に印象深かった太字部分について、写真を交えつつ現場のリアルな様子をお伝えする。

  • 全日程共通
  • 各種セッション:Google Cloudの最新技術や、具体的なAI導入事例、実践的なノウハウが発表される場。会期中数百に及ぶプログラムが用意され、専門的な知見を直接学ぶことができる。
  • EXPO(展示会):Google Cloudおよびパートナー企業が、最新ソリューションを披露する巨大なショーケース。実際のデモンストレーションに触れて技術を体感し、各分野の専門家に直接相談できる。
  • Day1(4月22日):Opening Keynote(基調講演)
  • Day2(4月23日):Next at Night
  • Day3(4月24日):クロージング

【パート①】熱気に包まれた「Google Cloud Next '26」現地レポート

ラスベガス特有の乾燥した空気すらかすむほどの熱気の中、Google Cloud Next ’26は幕を開けた。
会場となったマンダレイ・ベイ・コンベンションセンターは、次世代テクノロジーの恩恵を自社のビジネス変革に直結させようとする世界中のITリーダーやエンジニアたちで埋め尽くされていた。
ここでは、現地の臨場感を3つのハイライトからお伝えする。

Keynote(基調講演):AIは「実験」から「自律型エージェント」へ

オープニングを飾ったKeynoteでは、Google Cloud 最高経営責任者(CEO)のThomas Kurian(トーマス・クリアン)氏が登壇し、「エージェント時代の幕開け(The Agentic Cloud)」が高らかに宣言された。

AIが単なるアシスタント(対話ツール)から、自律的に思考し業務プロセスを完遂する「Gemini Enterprise Agent Platform」へと完全に進化したことがデモを交えて示され、会場からは大きなどよめきと拍手が巻き起こった。

Keynoteが開催された会場の様子。会場を埋め尽くす観客の前で「エージェント時代の幕開け」が高らかに宣言された

EXPO(展示会場):「触って体感する」エコシステムの最前線

広大なEXPOエリアは、Googleの最新インフラから、SAPをはじめとするパートナー企業による業界特化型ソリューションまでがひしめき合う巨大なショーケースとなっていた。

各ブースでは各社さまざまな趣向で来場者の足を止め、Gemini搭載エージェントを活用したインタラクティブなデモンストレーションが行われており、来場者が自らの手で最新技術に触れ、業務自動化のポテンシャルを食い入るように見つめる姿が印象的であった。

EXPO会場の様子

Next at Night

本パートの締めくくりとして、巨大なアレジアント・スタジアム(Allegiant Stadium)を貸し切って開催された公式パーティー「Next at Night」の様子をご紹介する。

会場には、スタジアムの広大なアリーナを覆い尽くす数万人の参加者が集結し、Benson Boone(ベンソン・ブーン)およびWeezer(ウィーザー)といった世界的アーティストによる圧巻のライブパフォーマンスが展開された。国境や業界の垣根を越えて語り合うこの熱量こそが、Google Cloudが牽引するAIエコシステムの勢いそのものを体現していたと言えるだろう。

次章のパート②では、この熱狂の渦中から当社のコンサルタントが持ち帰った一次情報をもとに、消費財メーカーのDXを加速させる具体的な示唆について深掘りしていく。

【パート②】現地視察から読み解く、消費財DXへの3つの示唆

前章でお伝えした「Google Cloud Next ’26」の熱気は、決して一過性のトレンドではない。本パートでは、当社のコンサルタントが現地で得た一次情報をもとに、消費財メーカーが直面するビジネス課題を打破するための具体的な「3つの示唆」を提示する。

具体的には、L’Oréal(ロレアル)の成功事例が示す「現場主導のAI開発(AIの民主化)」、消費者の購買行動にパラダイムシフトを起こす「エージェンティック・コマース」、そしてAIの高度な意思決定を根底から支える「SAPとのゼロコピーデータ連携」に焦点を当てる。これらの最新動向がいかにして実運用レベルへと落とし込まれているのか、その最前線をひもといていく。

現場主導のAI開発:「AIの民主化」がもたらす組織変革

これまでのAI開発は、高度な専門知識を持つエンジニアに依存せざるを得ず、現場のニーズが反映されるまでに多大な時間とコストを要していた。しかし、Gemini Enterpriseが提供する「Agent Designer」の登場は、この構図を根本から変えようとしている。
カンファレンスで示されたある企業の事例では、財務、人事、法務などのビジネス部門の従業員に対し、独自のAIエージェントを構築する権限とトレーニングが与えられた。結果として、現場担当者が自然言語を用いて自らの課題に直結したソリューションを設計できるようになり、1日に1,000以上のユーザーがエージェントを作成する規模へと「AIの民主化」が進んでいる。

また、世界的な美容企業であるロレアルも、「ビューティー・テック」の取り組みの中でエージェントプラットフォームの恩恵を受けている。同社は独自の内製AIからプラットフォームの活用へと戦略を転換することで、週に2,000ユーザーが利用する規模へとAIイニシアチブを拡大し、チームの能力強化とビジネス価値の向上を実現した。

消費財メーカーにとって、現場の深いドメイン知識を持つ非エンジニアが自らAIを育てる環境の構築こそが、全社的な生産性向上の鍵となるのである。

エージェンティック・コマース:クリックから「文脈」への転換

顧客接点においても、劇的なパラダイムシフトが起きている。従来の「クリックベース」のeコマースから、AIエージェントが商品の発見から決済までを代行する「エージェンティック・コマース」への移行である。

米百貨店のMacy’s(メイシーズ)は、Googleとの連携により、顧客がチャネルをまたいでもコンテキスト(文脈)を維持し続ける「フルイド・コマース(流動的なコマース)」を実証した。例えば、モバイルアプリで相談していた内容を店舗での対話に引き継ぎ、AIが顧客の意図を正確にくみ取って最適なパーソナライゼーションを提供する。

また、家具やホームグッズを専門とする米大手eコマースのWayfair(ウェイフェア)の事例では、Universal Commerce Protocol (UCP) といったオープンソースプロトコルの活用により、異なるプラットフォーム間でもAIエージェントが自律的に取引を行う環境が整備されつつある。

消費財メーカーは、自社製品を「AIに見つけてもらい、選んでもらう」ためのインフラ整備、すなわちデジタルカタログのセマンティック化(意味情報付与)を急ぐ必要がある。

SAP連携が実現する「データとの対話」とサプライチェーン変革

エージェントAIが正確な意思決定を行うためには、信頼できる基幹データとの統合が欠かせない。

Next ’26で発表されたSAPとGoogle Cloud(BigQuery)の「ゼロコピーによる双方向データ共有」は、まさにこの課題を解決する技術的ブレイクスルーである。
SAPのBusiness Data Cloud(BDC)戦略により、Delta規格(プロトコル)を介して、データの複製を伴わずにセマンティクスが豊富なデータプロダクトをBigQueryと共有することが可能となった。これにより、データ抽出・変換(ETL)に伴う遅延やコストが排除される。

この技術は、サプライチェーンのリスク管理において絶大な威力を発揮する。例えば、SAP内の在庫・輸送データと、Googleが提供するリアルタイムな気象情報や外部の企業リスクデータをGemini搭載エージェントが統合分析する。これにより、「特定の地域での台風発生が、2週間後の納品にどのような影響を与えるか」といった高度な問いに対し、AIが即座に最適解を提示できるようになる。もはやデータは「蓄積し分析するもの」ではなく、「エージェントを通じて対話するもの」へと進化したのである。

おわりに

エージェントAIによる現場のエンパワーメント、そしてSAP連携によるリアルタイムな意思決定。Google Cloud Next ’26で示された数々の革新は、AIが「概念実証(PoC)」のフェーズを完全に終え、本格的な「実運用」の段階に突入したことを物語っている。

本カンファレンスを通じて、消費財メーカーのリーダー層が認識すべき最も重要な示唆は、次世代のビジネス競争力が「人」「データ」「システム」の3要素の高度な融合によってのみ決まるという事実である。

第一に、「システム」はもはや人間の指示を待つ受動的なツールではなく、自律的に思考し業務を完遂するパートナー(エージェント)へと進化した。

第二に、そのAIの意思決定を支える「データ」は、SAPのゼロコピー連携に象徴されるように、組織のサイロを越えてリアルタイムに供給される「生きた血液」となっている。

そして第三に、これらを駆動する最大の鍵が「人」である。ロレアルの事例が示す通り、最新プラットフォームの真価は、IT部門のエンジニアではなく、消費者や製品を最もよく知る「現場のビジネスユーザー」に設計の権限が委譲された時にこそ発揮される。

もはや、単なる既存業務の効率化を目的とした「IT導入」にとどまってはならない。システム(AI)に文脈に富んだデータを与え、人(現場)が自らの深いドメイン知識をもってAIの挙動をデザインする。この「人×データ×システム」の新たな協働モデルをゼロベースで描き出し、全く新しい顧客体験や強靭なサプライチェーンを創出することこそが、次世代のDXを牽引するリーダーに今まさに求められている役割である。