病院DXグランドデザイン策定プロジェクト

課題

POINT 1

近年、医療機関は、人件費や物価高に伴う支出増、地方や過疎地域での医療従事者・IT人材の不足、医療職の働き方改革対応等の様々な課題を抱えている。多くの病院では、このような課題に対応するため各病院独自のDX(以下、「病院DX」という)に取り組み、デジタル技術を活用して病院固有の課題解決、組織文化の見直し、競争優位性の確立に取り組んでいる。
一方で、国も複数年に渡る計画で医療DXを進めており、保健・医療・介護の分野における情報やデータの利活用を通じて、医療サービスの質向上と効率化を目指した取り組みがされている。個々の病院は病院DXに加え国の施策である医療DX(以下、単に「医療DX」という)への対応も必要
となっている。

本プロジェクトのクライアント病院(大規模公立病院)でも、医師の働き方改革や各職種の業務負荷軽減を主目的に病院DXとして複数の院内組織を立ち上げたが、具体的な目的・進め方が不明確である、医療DXとのすみ分けをどうすべきか分からない、全体を推進する人材が不足しているなど様々な要因で検討は進んでおらず、病院固有の課題を踏まえ、医療DXをも考慮した病院DXを進めるうえでのグランドデザインの策定が急務であった。

アプローチと結果

POINT 2

本プロジェクトでは、約5ヵ月という短いプロジェクト期間の中、病院業界全体の状況や国の医療DXの検討状況を考慮したうえで、クライアント病院が立ち上げていたDXを行う5つの院内組織(以下、「院内DX組織」という)に対し横断的かつ包括的な視点での病院DXグランドデザインの策定を支援した。

1.各DX院内組織の現状整理
病院独自で進めてきたDXの取り組みに対し、コンサルタントが途中参画する場合には今までの取り組みを理解・尊重することが肝要である。まず現状整理・把握の目的から、各院内DX組織の各職員が抱える課題や目標を抽出するためにアンケートを実施した。具体的には、より本音を抽出しやすいように無記名方式による「どのような目的・目標をもって担当DXに取り組まれているか」「担当DXにおいて現在抱えている課題は何か」等の質問および質問に対する回答方法(複数選択形式+フリー入力)をGoogleフォームにて設定し、各院内DX組織職員に配布した。
 その後、アンケート結果をもとに課題仮説を立て、各院内DX組織への対面ヒアリングを実施した。病院や医療従事者へのヒアリングにあたっては、病院文化の理解が重要であるが、弊社は電子カルテシステム等の病院情報システム更改の支援も行っており、病院の仕組みや各職種の現場背景を十分に理解し、医療従事者への豊富なヒアリング経験を有している。これにより、アンケートだけでは把握しきれない現場の課題やその背景を整理することができ、机上や想像での課題施策検討ではなく各院内DX組織の今までの取り組みや各組織の課題を把握した解像度の高いグランドデザインの検討が可能となった。

2.他病院DX事例・国策医療DXの調査
並行して、弊社の豊富な病院のネットワークを活用した他病院でのDX事例を調査した。収集した情報は、医療の質向上、患者満足度向上、職員業務負荷軽減、病院経営寄与等で効果を分類し、本クライアントへの適合性についても整理した。また、国策である医療DX(オンライン資格確認等システム、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービス等)の最新動向や病院DXへの影響についても整理し、クライアント病院へのレクチャーを実施した。本調査により、病院特有の取り組みである個別性と医療DXとの親和性の両面を考慮したグランドデザインを策定することができた。

3.組織としての合意形成支援
病院DXを成功させるためには、組織としての合意形成のプロセスが非常に重要である。本プロジェクトのグランドデザインについても、担当者だけで決められる内容だけではなく組織全体としての判断・意思決定が必要であったため、病院経営層とのグランドデザインに関するディスカッションを実施し、合意形成を得た。また、グランドデザインの策定においては、グランドデザインの実行性を重視し以下のような観点も盛り込んだ。

DX推進組織機能の明確化
病院の規模や状況にもよるが、病院DXの推進においてシステム運用保守部門等の職員による兼任ではなく、専任で病院DXに取り組むことも有用である。本プロジェクトでは、現状のDX推進体制やシステム運用保守状況も考慮した組織体系に関しても立案を行った。

IT・DX人材の選択と集中
病院におけるIT・DX人材(人的リソース)は限られており、複数のDX組織を同じような力のかけ方で推進することは困難である。病院課題や各院内DX組織の現状整理結果をもとに、限られた人的リソースの中で成果の最大化を目的に短期で集中すべき院内DX組織について提言を行った。

KPI設定と推進プロセスの明確化
病院DXの推進においては、拙速に最終的なゴールを目指すのではなく、まず小さな成果を出すことで組織内での変革に対する抵抗感を減少させ、デジタル変革の文化を根付かせることが大切である。そのため、比較的短期間で具体的な成果(業務負荷軽減、業務効率化など)を出すためのKPIを設定し、いつどのように評価するかなど今後の推進プロセスを明確にした。

今回策定したグランドデザインは、現場の実情に即した現実的かつ戦略的な指針であり、病院DXの確実な推進と、医療提供体制の質的向上に向けた具体的な成果の創出が強く期待される。

成功のポイント

POINT 3

1.対面型ヒアリングによる現状調査
グランドデザイン策定において机上での仮説検討は重要であるが、必要十分とはいえない。病院ごと、現場ごとに課題が存在し、そのケースごとの施策検討が必要である。本プロジェクトでは、アンケート実施に加え対面ヒアリングの実施により職員の本音や意見を聞き出し、聞き出した意見から課題の本質を分析しグランドデザインを策定したことで、多くの職員から納得感を得られたことがプロジェクト成功要因の一つである。

2.病院情報や最新のデジタル技術への精通
病院でのデジタル技術の活用においては、病院で保有するデータ種類の把握や個人情報の観点からデータの取り扱いには十分な注意が必要である。弊社は医師・看護師等の医療資格保有者に加え上級医療情報技師など医療情報に係る資格保有者を有し、生成AIやクラウド技術にも精通しており、現場感と技術的な視点を併せ持つコンサルタントとして議論をリードできた。これらは、病院情報システム更改支援や国の医療DXプロジェクト支援など、医療分野での豊富な支援実績があったからこそ実現できた支援である。

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