組織変革が頓挫する原因はさまざまだが、その1つに、変革のプロセスとリーダーシップのミスマッチがある。外部環境の急変、事業承継、M&A後の統合、DX、事業再生と、企業が変革を迫られる場面は数多くある。しかし、合理的な制度や体制を導入したにもかかわらず、現場が動かず変革が頓挫する例を、筆者は実務の中で見てきた。
本稿では、中小企業の経営者や大企業の部門責任者など、メンバーの顔が見える規模の組織を率いるリーダーに向けて、組織変革プロセスの1つである解凍、移動、再凍結の3段階を土台に、変革を頓挫させる「2つの罠」を整理する。そのうえで、段階ごとにリーダーシップの型を切り替える実践的な方法を解説する。
目次
1. はじめに:制度を変えても現場は動かない
制度を変えたのに、現場が動かない。そのような悩みを抱えていないだろうか。「新しい評価制度を入れたが、運用が形骸化している」「組織図は変えたのに、仕事の進め方が変わらない」。いずれも、変革に取り組む中小企業の経営者や部門責任者から筆者が実際に聞いてきた悩みである。施策は導入済みなのに、組織の行動が変わっていないのである。
本稿で注目するのは、施策自体は合理的であるにもかかわらず、変革が頓挫するケースである。変革が失敗する要因は、施策の内容そのもの、資金や人材などの経営資源の制約、組織文化との相性などさまざまである。その中で筆者は、施策の中身ではなく導入プロセスに問題のある事例を、実務でいくつか見てきた。
この種の頓挫の問題は、施策を受け入れる側の人の心の状態を考慮せずに変革を進める点にある。そして、人の心の状態は変革の進行とともに変わる。つまり、リーダーが発揮すべきリーダーシップも、変革の段階に応じて変わらなければならない。この2点を見落とすと、どれほど優れた制度設計も機能しない。
なお、本稿が想定するのは、数十人から百人程度の、リーダーの手が届く範囲の組織である。人の心への働きかけは、メンバー一人ひとりと直接向き合えることを前提とするためである。数千人規模の全社変革には、階層を通じた別の設計が必要になる。裏を返せば、手の届く規模の組織でこそ、本稿の使い分けは最も効果を発揮すると筆者は考える。
2. 変革プロセスの基本構造:「人間軸」と「技術軸」
組織変革の成功に重要なのは順序である。「変わる必要がある」と人の心がほぐれ、その後に制度や仕組みの導入がなされ変革は実現する。
組織変革プロセスの1つに、レヴィンの3段階モデルがある。ロビンスはその内容について「変革の成功のためには現状の解凍、新しい状態への変革(移動)、そして新しい変革を永久化するための再凍結が必要」としている。[1]
このモデルに実務的な解像度を与えたのが髙木晴夫である。髙木は、変革のプロセスに「人間軸」と「技術軸」の2つの軸を導入した。[2]人間軸は人の心の状態を表し、「古い固い状態」から「軟らかい状態」を経て「新しい固い状態」へと変化する。一方、技術軸は変革の中身を表し、「あいまいな概念」から「具体的な経営技術・制度・業務系統」へと具体化していく。
まず人間軸の解凍が先にあり、技術軸の具体化はその後に続く。制度や仕組みの導入は、人の心が受け入れ可能な状態になって初めて機能する。(図1)
3. 変革を頓挫させる「2つの罠」
プロセスとリーダーシップのミスマッチによる頓挫は、人間軸と技術軸のバランスの崩れ方によって大きく2つのパターンに分けられる。この2つをそれぞれ「制度先行の罠」「共感過多の罠」と呼ぶ。(図2)この整理は、髙木が組織変革への抵抗として示した「のけ者の抵抗」「雑草の抵抗」の議論を基に、筆者が本稿の文脈に合わせて再構成したものである(なお、基となった議論の詳細については、出典[2]を参照されたい)。筆者が見聞きした変革リーダーを例にすると、以下のとおりである。
制度先行の罠:心を置き去りにした変革
1つ目は、人の心を解きほぐさないまま、新しい制度の導入に踏み切るパターンである。周囲は心理的についていけず、新制度は形骸化する。
この罠の典型は、制度の正しさだけを推進力にするリーダーである。ある企業では、部長A氏が新しい業務制度の導入を主導した。A氏の制度設計は正論であり、内容にも合理性があった。しかしA氏は、制度の正当性を主張するばかりで、現場のメンバーの心情に向き合わなかった。なぜ変える必要があるのか、メンバーの納得と腹落ちを得るためのコミュニケーションを怠ったのである。結果として積極的な協力は得られず、制度は機能不全のまま、なし崩し的に元の運用へと戻っていった。
人間軸の解凍を省略した変革は、たとえ正しくとも受け入れられにくい。正しさと動くことは別物である。
共感過多の罠:寄り添いすぎて変われない
2つ目は、人の心に寄り添いすぎるあまり、技術軸の変更、すなわち制度や仕組みの具体化が進まず、変革が中途半端に終わるパターンである。
この罠に陥るのは、メンバーへの配慮を意思決定より優先してしまうリーダーである。別のある企業では、シニアマネージャーB氏が、複数拠点の事業所責任者の自律性向上を目指し、権限移譲と評価制度の変更に着手した。方向性は的確であった。しかしB氏は、全事業所の人員一人ひとりの要望を聞き入れようとしすぎた。要望の調整に忙殺されて制度の骨格は定まらず、結局現状を変えられなかった。
解凍は変革の前提だが、それだけでは変革は完成しない。軟らかくなった心を新しい制度へと導き、定着させる技術軸の推進力が不可欠である。
4. 変革を導く3つのリーダーシップ
では、2つの罠を避けて変革をやり遂げるリーダーは何が違うのか。筆者は、変革の各段階で変わりゆくメンバーの状態を捉え、リーダーシップの型を適切に切り替えられることが決め手だと考える。本稿では、この切り替えの手段として、変革型、EQ(心の知能指数)、ネットワークの3つのリーダーシップを取り上げる。
変革型リーダーシップ:現状を揺さぶり、変化への意欲を生む
変革型リーダーシップは、メンバーの価値観に訴え、現状への疑問と変化への意欲を生み出すリーダーシップである。石川はバスが定義した変革リーダーの特徴である4つの行動要素を「理想化された影響」「知的刺激」「モチベーション鼓舞」「個別配慮」と訳し整理している。[3][4]順に各行動の要素を抽出すると「心を動かすビジョンを示す」「これまで疑問に思わなかったようなことについても、新たに考えるように求める」「やるべきことをわかりやすい言葉で表現する」「個別にコーチしアドバイスをする」といった特徴がある。[3]停滞した組織に変わろうという空気をつくる、変革の入口を担うリーダーシップと言える。
EQリーダーシップ:感情に働きかけ、行動を方向づける
EQリーダーシップは、EQを基盤として、メンバーの感情を正しく方向づけるリーダーシップである。ゴールマンらは、そのスタイルを「ビジョン型」「コーチ型」「関係重視型」「民主型」「ペースセッター型」「強制型」の6つに整理した。[5]
本稿では、組織風土に前向きな影響を与えるとされる前者4つに焦点を当てる。大きく捉えれば、ビジョン型とコーチ型は進む方向と成長への意欲に、関係重視型と民主型は人と人との結びつきと合意形成に働きかけるスタイルである。理屈ではなく感情の側から人を動かす点で、制度の説明だけでは動かない現場への影響は大きいと言える。
ネットワークリーダーシップ:知見を結び、仕組みに育てる
ネットワークリーダーシップは、メンバー同士の知見や経験を結びつけ、そこから生まれる新しい活動を組織の仕組みへと育てるリーダーシップである。高木晴夫の著書『ネットワーク リーダーシップ』によると、その要点は、「ネットワーク型に編成した企業組織に偶発的に生じるよりよい事業活動のパターンを見つけ出すこと」、そして「一定のビジョンや方針を持つことで、その活動パターンを共振させて大きくし、より明確な組織活動とすること」の2つである。[6]
つまり、各メンバーや部門が自ら動き出し、そこから事業の改善や新たな取り組みが生まれるのを促すのが狙いである。ただし、無軌道に動けばよいわけではない。リーダーはビジョンや方針に照らして有望な活動に資源を投入し、メンバーの興味と努力の方向をそろえて共振を起こす。人の心に働きかける前の2つと異なり、活動や仕組みという技術軸に作用する点に特徴がある。
5. 変革プロセスとリーダーシップの適合
3つのリーダーシップは、どの段階でも同じ比重で発揮すればよいわけではない。人間軸に対応する変革型とEQ、技術軸に対応するネットワークを、段階に応じて組み合わせを変えながら使い分ける。(図3)
解凍:変革型リーダーシップで方向を示す
解凍の段階では、古い固い状態にある組織を揺り動かす強いリーダーシップが必要である。変革型リーダーシップにより、心を動かすビジョンを示し、現状への疑問と変化への期待を生み出す。この段階でメンバーの自発性を期待するのは早い。リーダー自身が方向を指し示すべき局面である。
移動:ビジョンとコーチングで自発性を引き出す
移動の段階では、リーダーの牽引一辺倒から、メンバーの自発性を引き出す関わりへと重心を移す。人間軸に対しては、EQリーダーシップのうち、進むべき方向を指し示すビジョン型と、個々人の成長を支援するコーチ型が有効である。同時にこの段階では、技術軸の具体化が始まる。メンバー同士の知見を結びつけ、新しい制度や活動を形にするネットワークリーダーシップを発揮する局面でもある。
再凍結:民主的な運営に委ね、定着させる
再凍結の段階では、リーダーが前面に立ち続けることがかえって定着を妨げる。人間軸への関わりは、メンバーの意見を尊重する関係重視型/民主型のEQリーダーシップへと切り替え、新しいやり方をメンバー自身のものにしていく。技術軸では引き続きネットワークリーダーシップを発揮し、創発された活動が組織の方向性から外れないよう舵を取ることに自身の役割を移行していく。
実例:重心を段階的にシフトさせたC氏
この使い分けを実践し、変革をやり遂げた人物として、ある企業のマーケティング責任者C氏がいる。C氏は、製品プロモーションのために製造、販売、マーケティング部門からメンバーを選出し、部門横断のプロジェクトチームを立ち上げた。チーム設置時、C氏は変革型の強いリーダーシップで進むべき方向を明確に示した。活動が軌道に乗ると、コーチングとチーム方針の舵取りに関与をとどめ、最終的にはメンバー同士の意見交換による民主的な方針決定へと移行した。自身によるチーム牽引からメンバーによるチーム牽引へ、関与の重心を段階的にシフトさせたのである。
成果は一過性に終わらず、仕組みとして定着した。プロジェクトは製品の売り上げを大きく伸長させたうえ、その後も主力製品の開発のたびに発足し、現在も活動が続いているという。リーダーが手を離しても回り続ける仕組みこそ、再凍結の証左と言える。
切り替えは一人で担わなくてもよい
ここで1つの課題として、リーダーシップの切り替えを一人のリーダーが担いきれるか、という点が挙げられる。C氏は自身のバランス感覚によって関与の重心を移していった。しかし、強い牽引を得意とする人もいれば、傾聴と調整を得意とする人もいる。リーダー本人の気質や志向によっては、すべての型を一人で使い分けることが難しい場合もある。
その場合は、自分と異なる型を得意とする右腕人材を登用し、役割分担によって組織としてリーダーシップを移行していく方法が考えられる。例えば、解凍はトップ自身が変革型で牽引し、移動以降はコーチングに長けた右腕に現場との対話を委ねるという分担である。切り替えの主体を個人から組織へ広げることで、リーダーシップの使い分けは実行可能性を増す。
6. 展望:「変わり続けられる組織」への再凍結
では、再凍結はどこまで進めば完了と言えるのか。再凍結のゴールは、新しい制度の固定化ではなく、メンバーが自ら課題を見つけ、話し合い、やり方を更新し続ける組織文化を「新しい固い状態」として定着させることである。市場環境の変化が速く、技術革新が著しい昨今、一度の変革で得た制度は、いずれまた陳腐化しうるからである。変革のたびにリーダーの強い牽引で解凍からやり直す組織ではなく、変わり続けること自体を文化として備えた組織が、持続的な競争優位を持つと筆者は考える。
7. おわりに
本稿は変革プロセスとリーダーシップの適合という観点からアプローチし、変革を頓挫させる「制度先行の罠」「共感過多の罠」と、それを避けるための段階別リーダーシップの使い分けを述べてきた。もちろん、リーダーシップや組織変革のプロセスには多くの理論があり、企業の置かれた状況や組織文化など、さまざまな要素が変革の成否を分ける。それでも、人の心の状態を読み、自らの関わり方を変えられるリーダーの柔軟性が成否を大きく左右することに変わりはないと筆者は考える。いま変革の渦中にある方は、自身がどの段階にいて、どの型のリーダーシップを発揮しているかを一度点検してみてほしい。本稿がその一助となれば幸甚である。
本稿の執筆にあたり、名古屋商科大学ビジネススクールの髙木晴夫教授より、理論の引用と内容について貴重なご助言を賜りました。ここに記して感謝申し上げます。なお、本稿における見解および誤りは、すべて筆者に帰するものです。
【出典】
[1] Stephen P. Robbins著, 髙木晴夫訳(2009), 『【新版】組織行動のマネジメント』(ダイヤモンド社), 435頁
[2] 髙木晴夫(2008), 『企業組織と文化の変革』(慶應義塾大学ビジネススクール), 41-43頁
[3] 石川淳(2022), 『リーダーシップの理論―経験と勘を活かす武器を身につける』(中央経済社),133-135頁
[4] Bass, B. M., & Avolio, B. J.(1994), 『Improving Organizational Effectiveness Through Transformational Leadership』 Sage Publications., 3-4
[5] ダニエル・ゴールマン, リチャード・ボヤツィス, アニー・マッキー著, 土屋京子訳(2002), 『EQリーダーシップ 成功する人の「こころの知能指数」の活かし方』(日本経済新聞社),78-79頁
[6] 髙木晴夫(1995)『ネットワーク リーダーシップ』(日科技連出版社),22頁